体外受精 顕微授精

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体外受精・顕微授精とは?

タイミング法から人工授精までの「一般不妊治療」に対し、より高度な生殖技術を用いた体外受精や顕微授精などの治療を「生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)」と呼びます。

一般不妊治療 タイミング法・人工授精
生殖補助医療(ART) 体外受精・顕微授精

体外受精・胚移植(IVF-ET)とは

卵巣に育った卵胞から卵子を取り出し(採卵)、体外で精子と受精させ(媒精)、さらに数日育てて得られた受精卵を(培養)、子宮内に移植(胚移植)する治療法です。

顕微授精・胚移植(ICSI-ET)とは

重症の乏精子症や精子無力症などの場合に、精子を直接卵子の細胞質内に入れて受精卵をつくり、数日間培養した後に、子宮内に移植する治療法です。

こんな方にはARTをお勧めします

※不妊原因はひとつとは限りません。 また、検査しても特に原因が見つからない場合、ARTをすることで見つかる原因もあります。
※以下はARTをお勧めするケースの一例です。 このほかにもARTを適応するのが望ましいケースがあります。

奥様の年齢が38歳以上

女性の年齢の上昇とともに妊娠率は低下し、流産率は上昇します。一般に42歳までは妊娠例は認められますが、43歳以後の妊娠率は非常に低くなります。30歳半ばに差しかかったらステップアップを検討していきましょう。

パートナーの精液がちょっと心配・・・

不妊の原因は女性側に45%、男性側に30%、両方に原因がある又は原因不明が25%です。
精液検査の所見で、乏精子症や精子無力症などが見つかった場合は、ARTの適応になります。

そのうち妊娠するかな?と思っていてもなかなか妊娠しない

世界保健機関(WHO)では、夫婦が妊娠を希望して性生活を行うにもかかわらず、1年ほど経過しても妊娠できない状態を不妊症と定義しています。なかなか妊娠できないご夫婦には何らかの不妊の原因があるかもしれません。検査を行い不妊の原因を確かめましょう。

子宮内膜症や子宮筋腫がある

子宮内膜症は、子宮内膜やそれに似た組織が何らかの原因で卵巣などの子宮の内側以外の場所で発生し増殖する疾患です。周囲の組織と癒着し痛みを引き起こしたり不妊の原因になります。子宮筋腫は、良性の腫瘍です。30歳代の女性の2~3割がかかるといわれています。筋腫の発生した場所や大きさによって妊娠の妨げとなることがあり不妊の原因になります。

卵管が詰まっている

卵管が何らかの原因で閉塞していると、精子が卵管へ進むことが出来ず受精に至りません。

ホルモンバランスが崩れている

卵巣年齢が高かったり、卵巣機能の低下が見られる場合は妊娠しづらくなります。

日本での体外受精・顕微授精-胚移植の妊娠率

25~30%と報告されています。(年齢ごとの内訳は、34歳未満では約40%、35~39歳では約30%、40~42歳では約20%、43歳以上では約9%)

治療の流れ

治療の流れ 1.排卵誘発

排卵誘発と卵胞計測

薬などを使わない自然の排卵周期では成長する卵胞は通常1個ですが、生殖補助医療では一度に多数の卵子を得て妊娠率の向上をはかるために、クロミッド(内服剤)や、hMG製剤あるいはFSH製剤(注射剤)などの排卵誘発剤を用いることが多くあります。
排卵誘発方法にはクロミフェン法、アンタゴニスト法、ロング法、ショート法などがあります。それぞれの方法に、向き不向きや、メリット・デメリットが存在しますので、どの方法で誘発していくかは事前に医師と相談の上、決定します。
採取できる卵子数は、使用する排卵誘発剤の種類や量、年齢や体質、薬剤の感受性、卵巣疾患等の既往歴や治療歴などにより異なります。例えば、クロミフェン周期では1~3個、hMG(FSH)周期では3~15個が目安です。

排卵誘発剤を開始して数日ごとに超音波検査による卵胞計測を行い、採卵時期が決定されます。卵胞が発育したら(通常は卵胞径が18~20mm程度)、排卵誘発剤の使用を終了し、hCG製剤を注射、もしくはGnRHアゴニスト製剤(ブセレキュア)を点鼻して卵胞の成熟を促し、翌々日の採卵に備えます。

使用する排卵誘発剤

クロミフェン、セキソビット(内服剤)

脳の下垂体から卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモンの分泌を促すことで排卵誘発作用を発揮します。排卵誘発作用はそれほど強くないため、hMG製剤のように多数の卵胞は発育しませんが、40歳以上の方やhMG製剤が効かないなどの低反応群の方において効果が期待されます。
副作用には、卵巣の軽い痛みやお腹の張り、頭痛などがありますが、卵巣過剰刺激症候群は軽微です。また子宮内膜が薄くなることがあるため、移植に適さない場合には受精卵を凍結保存して新鮮胚移植を見合わせることがあります。なお子宮頚管粘液が減少する副作用については、生殖補助医療では問題となることはありません。

hMG製剤とFSH製剤(注射剤)

閉経期の女性では、卵巣機能の低下にともない下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体化ホルモンの分泌が上昇しています。これらのホルモンは尿中に多く排泄されるため、この尿を回収して卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモン成分を抽出精製した製剤が「hMG(ヒト閉経期ゴナドトロピン)製剤」です。hMG製剤には、含有する卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモン成分の比率により、いくつかの種類があります。hMG製剤はこれらのうち黄体化ホルモン成分を比較的多く含むものの総称で、これに対して黄体化ホルモン成分を含まないものを「FSH製剤」と呼んでいます。
また、人の尿を原料とせず、遺伝子組換えによって製造された「リコンビナントFSH製剤」もあります。尿を原料としないため不純物を含まず、品質が安定しているのが特徴です。

生殖補助医療では、通常は月経開始後3~5日目にhMG(FSH)製剤を開始し、1~10日間、卵胞の発育を見ながら採卵の2日前まで連日使用します。

副作用には、使用中の卵巣の痛みやお腹の張り、頭痛や倦怠感、注射部位の硬結や発赤などのアレルギー反応などがあります。また卵巣過剰刺激症候群についても注意が必要です。

なおhMG製剤とFSH製剤は、人の尿を原料とした生物製剤ですが、これらによる感染症などの健康被害についての報告はありません。

hCG製剤(注射剤)について

脳の下垂体から分泌される黄体化ホルモンは、卵胞を成熟させ排卵を促します。生殖補助医療では、卵子の成熟のために黄体化ホルモン作用のある薬剤が必要となりますが、現在のところ黄体化ホルモン製剤は製品化されておらず、その代わりにhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)製剤が使用されています。このhCGは妊卵や絨毛(胎盤)から分泌されるホルモンで、黄体刺激作用により黄体ホルモンの分泌を促し妊娠を維持します。
GnRHアゴニスト製剤を使用した排卵誘発(ロング法、ショート法)では、下垂体より卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモンの分泌が抑制されるため、採卵前に卵胞を成熟させるためにhCG製剤が必要不可欠です。通常、卵胞の充分な発育が確認されたらhCG3000~10000単位を注射し、35~37時間後に採卵を行います。
採卵は朝9時以降となるため、hCGの注射は前々日の20~22時となります。

GnRHアゴニストとGnRHアンタゴニストについて

卵胞が成熟すると、下垂体からの黄体化ホルモンの分泌が急激に上昇する「LHサージ」という現象により排卵が起こります。採卵するためには、排卵誘発剤で卵胞を発育させながら、同時に排卵を抑えなければなりません。良い卵子を得るためには、卵胞が成熟するタイミングを見計らって採卵することが重要です。
GnRHアゴニスト製剤とGnRHアンタゴニスト製剤は、下垂体からの黄体化ホルモン分泌を抑える作用を持ち、採卵前に排卵してしまうことを防ぐ薬剤です。

  1. GnRHアゴニスト製剤(点鼻薬)商品名:プセレキュア、ナファレリールなど
    GnRHアゴニスト製剤は点鼻薬タイプのホルモン剤です。ロング法、ショート法において排卵
    を抑制し、卵胞の発育をコントロールします。
    副作用に、頭痛、肩凝りなどの更年期症状が見られることがあります。頭痛に対しては、市販の頭痛薬を服用して構いません。
    また、ロング法、ショート法以外の誘発法では、卵胞が発育した時点(通常、卵胞径が18~20mm程度)でGnRHアゴニスト製剤を点鼻することで、卵胞の成熟を促進させる効果もあります。
  2. GnRHアンタゴニスト製剤(注射剤) 商品名:セトロタイド、ガニレスト
    GnRHアンタゴニスト製剤は注射薬です。GnRHアゴニスト製剤に比べ高額ですが、速効性があり使用期間も短く済みます。
    副作用は注射部位の発赤とかゆみです。かゆみは注射直後から数十分続き、激烈な場合があります。徐々に軽減しますので掻かないでください。氷などで冷やすとましになります。

自己注射について

毎日の通院や20時の通院が必要なくなるため、自己注射をおすすめしています。
説明用DVDの貸し出し、自己注射練習など、充分にご指導致しますのでご安心ください。

他院での注射について

他院様に注射を依頼することもできます。治療が始まる前に、お近くの医療機関(産婦人科や内科など)で当クリニックからの注射依頼についてご相談ください。
注射剤はこちらからお渡し致します。注射のスケジュールは紹介状に記します。注射剤の料金は当クリニックヘお支払頂きますが、注射の診察代はその医院様へお支払下さい。また、この注射による副作用が生じた場合は、責任は当クリニックにあります。医院様へは御迷惑をお掛けしません。

治療の流れ 2.採卵~媒精まで

採卵は、経腟超音波検査によって卵巣を確認し、細い穿刺針で卵巣にある卵胞を穿刺して行います。
採卵に要する時間は主に卵胞数によって異なり、卵胞1個につき1分くらいが目安です。
採卵の痛みは個人差があります。無麻酔か麻酔剤使用(局所麻酔、静脈麻酔、吸入麻酔など)は選べますので、事前にお伝え下さい。薬剤の卵への影響はありません。

1つの卵胞には卵子が通常1個存在しており、顕微鏡で観察しながら卵子を回収します。しかしながら、採卵直前の診察で、例えば10個の卵胞が確認されていても、必ずしも10個の卵子が回収できる訳ではありません。卵子が未熟な「未成熟卵」や、卵胞中に卵子が存在しない「空胞」、卵子の不良品である「形成不全卵」、「変性卵」などがあり、これらは治療に使用することができません。こうした異常卵子は年齢が進むにつれて増加します。

採卵の手順

  1. 安静室で手術衣に着替え、ロッカーの鍵を手首にゴムで巻きます。
    麻酔をされる方は腕に点滴をします。採卵直前に排尿を済ませておいてください。
    採卵の際には、安全確保のために各種の生体モニター(心電図、呼吸計、血中酸素濃度モニターなど)を使用します。血中酸素濃度を調べるモニターは人差し指に装着しますので、ネイルは外してください。また顔の皮膚や唇の色を確認するために化粧はしないか、控えめにしてください。コンタクトレンズは必ず外しておいてください。
  2. 採卵室で膣の洗浄を行った後、採卵を始めます。麻酔をされる方はこの時に眠っていただきます。
  3. 終了後は安静室で数十分~1時間の安静をとります。採卵後に使用する生理用ナプキン、ショーツをご用意ください。歩行や排尿ができるようになりましたら診察となり、問題がなければ帰宅となります。

採卵後の注意事項

  • 採卵後数日はお腹の痛みを感じることがあります。ご希望の方には鎮痛剤をお出しします。市販の鎮痛剤を使用しても良いです。当日は自宅で安静を心がけ、外出は控えてください。入浴はシャワーのみとしてください。
  • 卵巣過剰刺激症候群による腹部膨満感と月経痛様の腹痛がみられる場合は、スポーツ、ウォーキング、発汗を伴うサウナや長時間の入浴、アルコールは避けてください。また性交もお勧めできません。

麻酔を受ける方へ

  • 当日は朝食を摂らずにお越し下さい。起床時の飲水はコップ一杯程度の水にとどめてください(牛乳やジュース、コーヒーなどは飲まないでください)。高血圧や甲状腺などの薬を毎朝飲んでいる方はこの水で服用してください。糖尿病の薬は飲まないでください。薬につきましては、担当医にご相談ください。
    前日の夕食は、普段通りで結構です。
  • 使用する静脈麻酔は軽い全身麻酔であり局所麻酔ではありません。麻酔中は意識や記憶が途切れます。また麻酔の影響で気分が悪くなることがありますが、吐き気止めなどで対応します。麻酔が残り眠気やふらつきが起こることがありますので、お帰りの際を含め当日は車や自転車、バイクなどの運転をしないで下さい。また、できるだけ付添いの方と一緒に来院されることをおすすめ致します。
  • 麻酔を受ける方は、麻酔料が別途必要となります。

採精

1個以上の採卵ができましたら、9~12時頃に御主人には「採精室」にて精液を採取していただきます。自宅採取の場合は、精液を奥様または御主人が9~12時頃にお持ち下さい。
採取された精液は、精子分離剤を用いて遠心分離、洗浄濃縮を行い、運動性の良好な精子を選別します。良好精子の回収が十分でなく規定濃度に達しない場合には、顕微授精になる場合があります。顕微授精の場合には、重症乏精子症、精子無力症などの極めて精子の少ない人においても、なるべく運動性が良く形態異常のない良好精子を選んで実施します。

採精方法

採卵日の3~7日前に一度射精しておくのが理想的です。またご主人が出張などで採卵当日に不在となる場合には、事前に凍結保存した精子を使用することも可能です。ただし凍結精子を使用する場合は、生存精子が少なくなっているため多くの場合で顕微授精となります。

院内での採取方法

  1. 院内にある精液採取のための部屋(採精室)にご案内します。
  2. 精液は、マスターベーションによって採取してください。
  3. 採取する前には手を洗って、専用容器に精液を直接射出してください。容器のフタをしっかり閉め、お名前と記入事項を確認後、検査室前のパスポックスに入れチャイムボタンを押して下さい。

※採精室へのご案内は、採卵が終了し卵子が採取できた事を確認してからになりますので、待ち時間が長くなる場合がございます。お仕事などでお急ぎの方はご自宅での採取をお願い致します。

自宅で採取する場合の注意事項

  1. コンドームは潤滑剤により精子が悪影響を受けますので使用しないでください。
  2. 採取後の精液は、常温(18~25度程度)で保管してください。極端に暑い所や、寒い所には放置しないでください(冷蔵庫で冷やしたり、カイロで暖めたりしないでください)。寒い日にはタオルなどにくるみ可能であれば人肌程度に保温してご持参ください。

媒精・培養

体外受精では、精子と卵子をシャーレの中で混和し、自然に近い状態で受精させます(媒精)。受精には一定基準の精子濃度が必要です。顕微授精では、選別された一匹の精子を、マイクロピペットで卵子の中に注入して授精させます。
受精率の目安は、体外受精で60~70%、顕微授精で70~80%です。
受精が成立すると約18~24時間で前核期胚、2日で4分割(初期胚)、3日で8分割胚(初期胚)、5日で胚盤胞となります。採卵の翌日には電話にて受精の有無を確認できます。

  • 体外受精や顕微授精を行っても、成熟卵の全てが受精する訳ではありません。
  • 受精しない場合や、受精しても受精卵のグレードが悪い場合には「胚移植キャンセル」となることがあります。
  • 採卵の翌日に胚培養土から「受精確認」のお電話を致します。

治療の流れ 3.全胚凍結とそのスケジュール

凍結受精卵を用いた胚移植は、新鮮胚移植に比べて妊娠率が高いことが知られています。新鮮胚移植の場合には、ホルモン状態と子宮内膜および受精卵の発育がシンクロしないために移植に適さないことがあります。

さらに、頻度の高い副作用である卵巣過剰刺激症候群を起こしうる場合に移植を行い、妊娠に至った場合には重症化のリスクが生じます。採卵後に受精卵を凍結保存し、数周期の間、ホルモン状態や体調を整えた後に移植を行う凍結受精卵融解胚移植(凍結胚移植)では、この問題が解消されます。とりわけホルモン補充周期で行う移植法では、ホルモン状態が安定していることが妊娠率を改善させる要因と考えられます。

移植の時期は、採卵した日から数えておよそ1~2ヶ月後となります。採卵後、必要な場合は1周期ピルを服用して卵巣を休めます。服用後に月経が開始したら移植予定を立てます。また、凍結した胚を移植せず再度採卵を行うことも可能です(貯卵)。

受精卵は、初期胚(培養3日目)、もしくは胚盤胞(培養5、6日目)で凍結保存します。

初期胚 胚盤胞
凍結 凍結できる可能性が高い* 胚盤胞まで成長しない胚が多く凍結できる胚が少なくなる
妊娠率 低い(平均20%) 高い(平均50%)
培養方法 毎日観察(観察のストレスあり*) 5日目まで観察なし(観察のストレスなし*)

*受精卵にとって毎日の観察(培養器から出す事)はストレスになり胚盤胞発生率が下がります。

当院では観察をせずに胚盤胞まで培養する方法をおすすめしておりますが、すべての受精卵が成長せず凍結できない可能性もあるため、ご希望の方には初期胚での凍結も行います。ご希望の方は採卵当日もしくは受精確認のお電話の際、胚培養士にご相談ください。

胚移植の方法

受精後、卵割が順調にすすみ良好胚ができれば胚移植を行います。移植には以下の方法があります。

  • 採卵後2日目、3日目に胚を移植する「初期胚移植」
  • 5日目に移植する「胚盤胞移植」
  • 2、3日目に1個、5日目に1個計2個移植する「二段階胚移植」

どの方法を選択するかは受精卵の数やグレード、年齢、治療歴などにより個々に検討されます。

胚盤胞移植について

受精卵は、2分割→4分割→8分割と分裂を続け、およそ5日目には「胚盤胞」と呼ばれる着床前の状態に至ります。受精後2~3日目の初期胚を移植するのが「初期胚移植」、5日目以降の「胚盤胞」を移植するのが「胚盤胞移植」です。

胚盤胞移植では、胚盤胞まで発育した良好胚を移植できるため着床率が高いのが特徴です。移植数を少な<抑えることができるため、多胎妊娠の防止にもつながります。また初期胚移植と組み合わせた「二段階胚移植法」は、反復不成功例にも有用とされます。

胚盤胞移植の長所

1 妊娠率の上昇
受精卵はその40%に染色体異常があるとも言われ、全てが着床することはまずありません。こうした問題のある受精卵は、分割~着床の段階である程度の淘汰を受けるからです。初期胚はグレードが良いほど妊娠率が高くなりますが、そうした受精卵でも培養を続けると発育が途中で停止してしまうことがあるのはこうした理由によるものです。初期胚移植を行っても妊娠しない場合には、子宮内で同様な事が起こっていると考えられます。初期胚が胚盤胞に到達する過程において受精卵がある程度の選別を受けることで、胚盤胞移植が高い妊娠率につながります。

2 多胎妊娠の防止
受精卵の移植数を増やせば妊娠率は上昇しますが、同時に多胎妊娠も増加します。着床率の高い胚盤胞移植では、移植数を1個に制限しても高い妊娠率が得られるため、多胎妊娠を防ぐことができます。

3 子宮外妊娠の防止
受精卵を子宮内に移植しても子宮外妊娠は起こります。着床するまでの間に受精卵が卵管に逆行し、そこに着床してしまうことがあるからです。初期胚は、一旦卵管に向かった後に子宮に戻ってくる(受精卵回帰)という仮説もあります。胚盤胞も卵管に移動することはありますが、移植から着床までの時間か短く、早い段階で子宮内膜に着床するため子宮外妊娠の発生が抑えられるのではないかと考えられています。しかしながら実際には、子宮外妊娠を100%防ぐことはできません。

胚盤胞移植の短所

1 胚移植キャンセル
受精卵のうち良好な胚盤胞に到達できる割合は30~40%にとどまるため、胚盤胞が一つもできずに予定された移植がキャンセルになることがあります。

2 未完成な培養技術
培養液の開発により実現可能となった胚盤胞移植ですが、胚盤胞への到達率は十分満足できるものではなく、まだ改良の余地があります。
また培養環境が体内に比して悪ければ、長期に培養するほど胚にとってはストレスにもなります。その結果、妊娠の可能性を持っている受精卵が培養の途中で淘汰されてしまう可能性もあります。当院では受精卵の観察回数を最低限にし、できるだけ体内の環境に近づける工夫をしております。

3 一卵性多胎の増加
昨今の産婦人科医師・病院の不足に反し、生殖補助医療の普及に伴う周産期管理に人手のかかる多胎妊娠が増えたことは、医療の現場を圧迫し、社会問題となりつつあります。
生殖補助医療による多胎妊娠は、その大半は受精卵を複数個移植することが原因ですが、近年、受精卵を一個しか移植していないのに多胎妊娠となる症例が増えています。
一卵性双胎は、受精から卵割・着床の過程で受精卵が二つに分断されることが原因です。胚盤胞移植では孵化の際に受精卵が分断されてしまったり、胚盤胞の成長過程で収縮と拡張を繰り返すうち胎児になる内細胞塊が分裂してしまい一卵性双胎が増えるという可能性が指摘されています。
こうした一卵性の多胎妊娠は周産期管理がさらに難しく、出生児が発育不良に陥ったり、流産、早産するなどの問題点があります。

移植胚の選択・基本方針

以上のことから当院では以下を基本方針と致します。

  • 採卵周期は移植せず、翌周期以降に凍結融解胚移植を行う事を推奨する。
  • 移植・凍結時期は胚盤胞とし、初期胚は希望がある場合のみとする。

移植数(日本産科婦人科学会の会告2008年)

35歳以上の人回数を問わず2個まで胚盤胞移植年齢、回数を問わず1個
35歳未満の人 1回目、2回目、3回目以降 原則1個、2個まで
35歳以上の人 回数を問わず 2個まで
胚盤胞移植 年齢、回数を問わず 1個

妊娠率の高い35歳未満は多胎妊娠を防ぐために移植数が「原則1個」に制限されました。
また、妊娠率が高い胚盤胞の移植数は年齢を問わず1個とします。

孵化補助法

胚盤胞まで発育した受精卵が、着床の際に胚を取り囲む透明帯という殻を破って外に出ることを孵化(ふか:ハッチングともいいます)と言います。

良い受精卵であったとしてもこの孵化ができなかった場合には着床することができません。こうした孵化障害は、良好な受精卵を移植しても妊娠に至らない原因の一つと考えられています。

孵化障害には胚の質によるものと、透明帯の構造によるものがあります。後者は透明帯が硬くなったり厚くなったりしており、これらは受精卵を体外培養したり、凍結することによりもたらされると言われています。

こうした問題を防ぐため、透明帯部分の一部を薄くして胚の孵化を助ける技術を孵化補助法(AHA:アシステッドハッチング)といいます。

当クリニックではレーザーによる透明帯非薄化法を行っております。レーザーは透明帯にだけ照射するため、受精卵に影響が少なく、非常に安全性の高い方法です。

当クリニックにおけるAHAの適応

初期胚で凍結した受精卵が適応となります。拡張期以降の胚盤胞で凍結された場合は、すでに透明帯が薄くなっているか一部孵化しているため、AHAの適応にはなりません。

初期胚凍結をされた方で、以下の場合には、移植に際してAHAを積極的に併用しております。

  1. 40歳以上の方で凍結胚移植を行う場合
    受精卵を凍結すると、透明帯が固くなる傾向にあると言われています。そのため、当院では凍結胚移植を行う際には、AHAについて患者様とご相談しております。
    ・40歳以上の方の場合は、AHAを施行した方が妊娠率が上昇するというデータが存在する為、積極的におすすめしております。
    ・39歳以下の方の場合、孵化補助法の有用性についてはまだ十分には検証されておらず、一定の見解(AHAを施行した方が妊娠率が高い等)もありません。
  2. 反復不成功例
    良好胚を複数回移植しても良い結果が得られない場合は、年齢に関わらすAHAをおすすめしております。
  3. 透明帯肥厚例
    元々透明帯が厚い卵や、顕微授精の際に透明帯が硬いと判断された卵については、積極的にAHAをおすすめしております。

接着作用培養液

当クリニックでは、UTMという、ヒアルロン酸を含み粘性がやや高く、着床しやすいとされている培養液を胚移植の際に使用しています。

胚移植の手順

  1. 移植当日は指定された時間に来院してください。
  2. 移植の際には尿を多めに溜めて頂く必要があります。予約時間の1時間前に一度排尿して頂き、その後350ml程度の水分をお取りください。
  3. 来院後、子宮の収縮を抑える薬を服用します。
  4. 処置室にて子宮内に胚移植を行います(所要時間約10分)
  5. 診察室にて移植後のスケジュールを医師から聞いて頂きます。
  • 移植の前後は、内服薬・膣座薬で黄体ホルモンの補充を行います。黄体補充は妊娠反応が陽性となった場合にはおよそ妊娠8~10週まで続けます。
  • 胚移植時には麻酔を行いません(人工授精と同様で、強い痛みはありません)。
  • 移植当日は、激しい運動や性交渉は避けてください。
  • 入浴は移植当日から可能です。

治療の流れ 4.妊娠判定

生殖補助医療では採卵日を「妊娠2週0日」として妊娠週数を数え、3週5日~4週0日に血液検査、または尿検査で妊娠判定を行います。受精卵が順調に着床していれば、この時点で妊娠反応が陽性となりますが、陰性の場合は残念ながら不成功です。
判定前から月経様の出血や腹痛があっても、生理ではなく妊娠初期の症状で正常に妊娠していることもありますので、自己判断せずに判定日には必ず受診して下さい。

妊娠週数と胎児像

妊娠4週目:妊娠反応が「陽性」となります。

妊娠5週目:赤ちゃんの部屋(胎嚢:たいのう)が子宮内に見られます。

妊娠6週目:赤ちゃんの付属物(卵黄嚢:らんおうのう)が確認されます。

妊娠7週目:赤ちゃんの心拍が胎嚢内に見られます。

  • 妊娠反応が陽性となった後も、妊娠8週頃までは黄体ホルモンの使用を続けます。とりわけホルモン補充周期での凍結胚移植を行う場合には、使用しないと流産しますのでご注意下さい。
  • 生殖補助医療による妊娠では、およそ20~30%が流産します。
  • 妊娠反応が陽性となっても胎嚢が見えてこない場合があり、これを「化学的妊娠(化学的流産)」と言います。一般に胎児心拍が確認されればそれ以降の流産の確率は5~10%に下がります。
  • 妊娠していない場合でも黄体ホルモン剤の作用により高い体温が続いたり、月経が遅れることがあります。
  • 続けての治療を希望される場合、凍結胚移植であれば続けての治療が可能です。採卵をご希望の場合は1ヵ月間の休憩が必要な事がありますのでご相談ください。

副作用・合併症について

卵巣過剰刺激症候群(OHSS)

自然排卵周期では卵巣に1個(時に2個)の卵胞ができますが、排卵誘発剤を用いた「刺激周期」では通常複数の卵胞形成が見られます。作用の強い注射剤を連日使用すると10~20個の卵胞ができることも珍しくありません。
「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」は、多数の卵胞形成によって、卵巣が腫れることによる腹痛と、随伴して出現する腹水による腹部圧迫感を主症状とします。症状の程度は薬剤の種類と使用量、そして受ける人の体質(たとえば多嚢胞性卵巣症候群)、薬剤への感受性によって異なります。
症伏は採卵後から出現し一週間頃にピークを迎えますが、月経前になるとすみやかに改善してきます。しかし妊娠が成立した場合には、妊卵から分泌されるhCGにより黄体が刺激を受けてホルモンの分泌が続くため、症状は長引きます。

OHSSは注射剤の排卵誘発剤を使用する人にみられる症状ですが、大部分は軽症のため日にちが経ては改善してゆきます。身体を動かした時などに、腹部に引きつる感覚やチクチクした痛みを感じるのは症状の初期と言えます。卵巣が大きく腫れて強い痛みがある、腹水がたまる、尿量が減少してくるような重症例では注意が必要です。このようなケースでは血液の濃縮が起こり、血栓症などを引き起こすことがあるからです。胸水までたまるような最重症例では長期の入院加療が必要となります。

OHSSを未然に防ぐため薬は慎重に使用しておりますが、予想以上の反応が起こることがあります。発症した場合は医師の指示に従って水分をいつもより多めに取り、激しい運動やアルコールを控えることなどを心がけてください。

流産について

自然妊娠における流産はおよそ10~15%に起こりますが、生殖補助医療による妊娠ではより高率となります(生殖補助医療流産率約26% 日本産科婦人科学会2012年集計)。こうした流産の原因には、受精卵の染色体異常や母体の年齢と体質、子宮筋腫や子宮内膜症、感染症、免疫などが関与しているとされます。最も頻度の高い染色体異常は、これによる流産を防止する策はありません。自然妊娠と比べて生殖補助医療での発生率が高いのは、生殖補助医療を受けられる患者さんに、これらの原因因子を持つ方が多いためと考えられます。

流産とその取り扱い

流産の症状には出血と腹痛がありますが、これらは必ず見られるわけではありません。また、順調な経過の場合でも、これらの症状はたびたび出現して母体の不安をあおります。流産の診断は、超音波検査法や血液検査により行われます。

1 化学的流産(イヒ学的妊娠)
尿検査で妊娠反応は陽性であるが子宮内に胎嚢が確認されない妊娠で、しばらく高温期が続いた後にいつもより遅れて月経となります。これは超初期の流産ですが、臨床的には流産として取り扱うことはありません。流産と言っても少し量の多い月経と違いはありませんので、流産手術の必要はなく、すぐに治療は再開できます。

2 臨床的流産
妊娠反応に続いて子宮内に胎嚢や胎児が確認されたか、その発育が停止した状態。最も頻度が高いのは、胎嚢は確認されたものの胎児の存在が確認できない妊娠5~7週の時期の流産です。たとえ出血などの症状がなくても、超音波検査で週数相当の発育が確認できなければ流産と診断されます。数日~数週間の後、子宮内容は自然排泄されますが、子宮内に留まったままの「稽留流産」では流産手術が必要となります。手術を受けた場合は、およそ2ヶ月の避妊期間が必要です。

多胎妊娠について

多胎妊娠率は自然妊娠ではおよそ1%ですが、生殖補助医療による妊娠では11~13%と高率になります。その内訳は双胎(双子)93%、品胎(三つ子)以上7%です(日本産科婦人科学会2007年報告)。

多胎妊娠における最大の問題点は、早産(妊娠37週未満の分娩)に伴う出生児の合併症と後遺症です。早産率は単体妊娠では10%なのに対し、双胎では60%、品胎では90%となり、多くの場合で予定日を待たずに出産となります。そのため切迫早産兆候が見られた場合には、出産までの安静入院が必要となることがあります。胎児が未熟児で生まれた場合には、新生児集中治療室(NICU)での加療が必要となり、双胎で4.7%、品胎で3.5%に視力低下や発達障害などの後遺症が出現します。

それ以外にも多胎妊娠では妊娠性高血圧症を発症しやすい事や、出産の80%が帝王切開となるという、周産期上の大きな問題を抱えます。こうした母体への影響と負担、および早産児(未熟児)の抱える諸問題を考えるに、多胎妊娠は安易に歓迎できるものではありません。欧米では乳幼児虐待の温床になるとさえ言われています。

以前は妊娠率を向上させるために複数の胚を移植しましたが、技術の進歩により妊娠率が向上した現在では、学会により移植胚数に制限が設けられています。胚の数を増やすにつれて妊娠率は高くなると思われがちですが、実際には3個以上に増やしてもそれ以上には向上せず、多胎妊娠が増えるだけだからです。多胎防止のために移植数を制限することで妊娠率が低くなっても、長い目で見れば母児にとって望ましいと考えられます。

多胎妊娠になってしまった場合には、妊娠経過を慎重に観察してゆく必要があります。多くの個人産院では管理能力に限界があり、多胎妊娠の取り扱いが難しいのが現状です。総合病院であっても未熟児を管理するNICUがない場合には高次医療機関へ搬送となります。万全を期するには、周産期センターの併設された基幹病院で健診を受けるのが望ましいでしょう。

子宮外妊娠について

子宮外妊娠は受精卵が子宮内膜以外の場所で着床してしまう異常な妊娠です。着床する場所により卵管妊娠・子宮間質部妊娠・子宮頚管妊娠などの種類がありますが、最も頻度の高いのが卵管妊娠(95%)です。着床した胎芽は正常に発育することはできず、着床部位の破綻による出血と腹痛が出現し、重症例では出血性ショックを引き起こすため緊急手術が必要となります。自然妊娠での発生率は1%程度です。

子宮外妊娠は受精卵を子宮内に移植する生殖補助医療においても起こりえます(体外受精:2% 顕微授精:1.8% 日本産科婦人科学会2007年報告)。これは子宮内に移植された受精卵が卵管に逆行しその場所に着床してしまうのが原因と考えられています。自然妊娠と比べて体外受精での発生率が若干高いのは、卵管に輸送障害がある卵管性不妊が多いためと考えられます。従って過去に子宮外妊娠やクラミジア感染の既往のある卵管性不妊症の方では、より注意が必要とされます。またまれに子宮内妊娠と子宮外妊娠とが同時に起こる「内外同時妊娠」もあります。

子宮外妊娠は発見が遅れると重症化し命に関わる場合もありますが、その早期診断は容易ではなく、また有効な予防策もありません。胚移植後、妊娠判定日頃から出血が起こり「生理になった」と判断されるケースでも子宮外妊娠を起こしている事がありますので、「判定日」には必ず受診してください。

染色体異常・先天異常について

生殖補助医療が受精卵(出生児)に与えうる影響には、「体外培養」や「顕微操作」による人為的な影響と、生殖補助医療を受ける患者さん(母集団)による影響とが考えられます。

生殖補助医療による妊娠では自然妊娠に比べて流産率が高いとされますが、流産児や出生児の染色体異常および先天異常の発生率は自然妊娠と差が見られません。つまり卵子を取り出し培養する「体外操作」は、受精卵の染色体異常を増やさないと考えられます。また染色体に異常がない夫婦の場合では、体外受精と顕微授精による受精卵の染色体異常の発生率に差がないとの報告より、「顕微操作」も受精卵の染色体に影響をおよぼさないと考えられます。

しかし一方で、顕微受精においては染色体異常以外の先天異常や精神発達遅延を指摘する報告があります。さらに近年、生殖補助医療により出生した児にBeckwith-Wiedermann症候群やAngelman症候群などのゲノム・インプリンティング異常症と呼ばれる疾患が見られるとの報告や、胚盤胞移植による一卵性双胎や血液キメラなどの発生が指摘されており、さらなる検証が必要です。体外受精や顕微授精の生殖技術は、臨床応用されてまだ歴史が浅い治療法であるため、出生児の身体的、精神的発運上の問題点や長期の影響(たとえば次世代、次々世代)については不明である点もご了承下さい。

一方、患者さんの背景による影響には女性側と男性側の要因があります。女性側要因としては年齢が重要であり、加齢により卵子の染色体異常が増加し、それに伴い流産と染色体異常児の出産率は増加します。

参考)ダウン症児出産率

20歳 25歳 30歳 35歳 40歳 45歳
1/1177 1/1042 1/704 1/299 1/87 1/22

男性側要因としては不妊男性の5.6%に染色体異常が認められ、これは一般男性の0.6%に比して高い頻度です。従来は妊娠をあきらめていた無精子症~高度乏精子症の場合でも、顕微授精の技術によって妊娠が望めるようになりましたが、男性の性機能に関する遺伝子はY染色体上に存在するため、出生児が男児であった場合、父親から男性不妊を受け継ぐ可能性があります。しかし現時点では次世代、次々世代などへの影響についての、はっきりとした結論は出されていません。

参考)出生時の形態異常発生率

日本 国外
体外受精 0.8%(平成5~7年) 2~3%(自然妊娠と同じ)
顕微授精 0.7%(平成6~7年) 2.6~3.3%

参考)5歳時の先天異常発生率(日本受精着床学会 2006年報告)

国内 生殖補助医療による出生児 神奈川県・一般出生児
体外受精 3.1% 2.5~3.72%
顕微授精 3.72% 2.5~3.72%

注意)一般に先天異常は出生直後に分からないことも多いため、その発生率は生後1年の時点では生下時に比べて2~3倍増加します。

重症男性不妊の染色体異常検査

当クリニックでは重症男性不妊の場合、事前に男性側の染色体検査をお勧めしております。

Y染色体微小欠失(保険外)

Y染色体上には精子形成に関わる遺伝子が存在しますが、重症無精子症で15~20%、高度乏精子症で7~10%の割合で、この遺伝子が欠損しているとの報告があります。こうした異常は、出生児に受け継がれる可能性がありますので、必要と考えられる場合や希望される場合には検査を行います。

採卵に伴うリスクについて

採卵に伴うリスク・合併症には出血、臓器損傷、感染および麻酔の副作用などがあります。

  1. 出血
    採卵は、穿刺針を超音波検査で確認しながら膣から腹腔内に挿入し、卵巣にできた卵胞に到達させて行うため、膣壁や卵巣表面にある血管から若干量の出血が起こります。こうした出血は、頻度としては多いものですが、自然に止血するため大事には至りません。
    しかし卵巣周辺はそれ以外にも大血管が走行しているため、万一これらが傷ついた場合には腹腔内出血となり、多量となれば輸血や開腹術による止血操作が必要となることがあります。採卵当日は生体モニターを装着し、終了後にも数時間慎重な観察を行い、異常がないことを確認してから帰宅していただきます。
  2. 臓器損傷
    子宮の前方には膀胱、後方には腸管があり、卵巣はこれらの臓器にはさまれて存在しています。採卵に際して安全性には十分配慮していますが、卵巣とこれらの臓器が隣接している場合、損傷する可能性があります。膀胱を穿刺した場合には一過性に血尿が出ることがありますが、大事には至りません。腸管を穿刺した場合には腹膜炎を起こす可能性があります。また子宮内膜症を持つ方の場合、採卵の際にチョコレート嚢腫を穿刺すると付属器炎を起こす可能性があります。採卵後には抗生剤が処方されますので必ず服用してください。また血尿が続いたり、発熱を伴った腹痛がある場合にはご連絡ください。
  3. 麻酔の副作用
    採卵の際に静脈麻酔(軽い全身麻酔)を行うと、血圧や呼吸の変動がみられることがあります。当クリニックでは処置に際しては生体モニターを装着し、安全性の確保に努めています。麻酔薬の作用は短時間で消失しますが、嘔吐や立ちくらみなどの副作用が残ることがあります。夕方には快方に向かいますので、一日安静にしてください。またこうした症状が翌日まで続く場合はご連絡ください。
  4. アレルギー
    使用する麻酔薬や抗生剤によりアレルギー反応が起こることがまれにあります。過去に薬剤でアレルギーを起こしたことのある人や、喘息、緑内障、糖尿病などのある方は、事前に申し出てください。

以上に述べた合併症は採卵を受けた人すべてに起こるものではな<、極めて稀に起こります。当クリニックでは採卵後も十分な経過観察を行い、安全性の確保に努めています。心配が強い方は医師にご相談ください。

妊娠後から転院まで

妊娠判定が陽性となり、その後も流産せずに妊娠8~10週頃まで順調に経過した場合、当クリニックを卒業して産科のある病院(医院)に転院していただくこととなります。転院先は、当クリニックで斡旋しておりませんので、ご本人に決めていただくこととなります。早目の予約が必要な病院もありますのでご注意ください。

帰省分娩を考えている方

分娩のための産科(実家の所在地)と健診のための産科(自宅の近郊)を決めてください。帰省先の産科には、事前に電話をかけて予約か可能かどうかを問い合わせてください。

ハイリスク妊娠

不妊治療、とりわけ生殖補助医療による妊娠はハイリスク妊娠と認識されています。流産、早産、死産、妊娠性高血圧症、胎盤位置異常、胎児発育異常、胎児仮死、分娩異常などのリスクが自然妊娠に比して高いとの報告もあります。
以下の項目に該当する場合には、周産期センターを備えた基幹病院で分娩までの周産期管理を受ける方が安心です。

  • 40歳以上
  • 多胎妊娠
  • 婦人科的合併症(子宮筋腫、子宮内膜症など)
  • 内科的合併症(糖尿病、高血圧、甲状腺疾患、肥満など)