後腹膜妊娠

後腹膜妊娠

 

「後腹膜妊娠」  津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)

 

後腹膜とは

 

腹部手術の際、手前にある胃や肝臓などは直接に見ることができます。一方、背中に近い臓器などは腹膜に覆われているために見ることができません。

この腹膜の後ろ(後腹膜)には、腎臓、副腎、尿管、膀胱、上行結腸、下行結腸、直腸、膵臓、大動脈、下大静脈などが存在します。

 

 

腹腔鏡下手術で判明した後腹膜妊娠の1例 改定
35.pdf (tyuushi-obgyn.jp)

 

後腹膜妊娠は非常に稀で、婦人科で実施される経腟超音波では通常は診断できませんので、診断は容易ではありません。経腹超音波検査やCTMRI検査などが必要となります。

下腹部痛を主訴としているものは53.8%でした。診断・治療が遅れると重篤な転機となります。

後腹膜妊娠のうち卵管妊娠の既往がある症例が40%、自然妊娠が65.4%で、診断時の平均妊娠週数は8週と報告されています。

後腹膜妊娠の原因の仮説として、①受精卵が卵管を通って逆行性に腹腔内に移動し、腹膜内から後腹膜腔に侵入し着床する、②受精卵が直接後腹膜に移殖され後腹膜のびらん面から後腹膜腔に着床する、③受精卵がリンパ管を介して移動する、があります。

後腹膜妊娠部位は総腸骨動静脈よりも上方に起こることが知られています。

 

 

体外受精胚移植後にリンパ液の移動を伴う後腹膜異所性妊娠を認めた1例:胚の遠隔移動に関する説明
A case report of retroperitoneal ectopic pregnancy with lymphatic migration after in vitro fertilization-embryo transfer: an explanation to embryo distant migration (fertstert.org)

 

病理検査の結果、妊娠組織はリンパ組織に囲まれた拡大リンパ節内にあり、子宮内膜組織にもリンパ球の浸潤が認められ、着床した胚がリンパ管を経て後腹膜に移動したことが示唆されました。

片側、両側にかかわらず、卵管手術の既往のある患者において、体外受精胚移植後の後腹膜妊娠の可能性に注意を払うべきです。

 

 

後腹膜妊娠に対する集学的治療:症例報告および文献レビュー
s12884-022-04799-5.pdf

 

原発性後腹膜妊娠の病因は複雑であり、まだ解明されていないが、3つのメカニズム仮説が提唱されています。

(1)胚は、異所性の子宮穿孔、あるいは卵管切除術後に形成された瘻孔路を介して、後腹膜腔に着床する。

(2)胚が腹膜後面に着床し、その後の腹膜からの栄養膜の侵入によって後腹膜腔に到達する。

(3)術後の病理検査で異所性腫瘤にリンパ組織が認められることから、婦人科がんの転移と同様に、受精卵がリンパ系を介して後腹膜腔に到達する可能性を示唆している。

この自然妊娠の前に骨盤手術や卵管病変の既往がなく、子宮や卵管と後腹膜腔の間に異常な流路が認められなかった。

胎嚢は下大静脈上に着床し、その上に無傷の腹膜があった。

体外受精に伴う症例が多いのは、受精卵が子宮内膜の深部に沈着し、その後のリンパ管への移動が容易になるためと考えられる。

 

 

コメント

 

・異所性妊娠(子宮外妊娠)が疑われるのに、胎嚢がある場所を特定できない際には、「後腹膜妊娠」を検討します。
・腹部超音波やCTMRIなどを使用して、大血管近くを探します。手術中も同様です。
・特に、卵管手術の既往や、体外受精胚移植後は注意を払います。