2022/10/25
体外受精における孵化補助の役割:ガイドライン
The role of assisted hatching in in vitro fertilization: a guideline (asrm.org)
補助孵化法(アシステッドハッチング assisted hatching:AH)
ママ。殻が薄いと出やすいよ💛
「体外受精における孵化補助の役割:ガイドライン」 津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)
胚盤胞の孵化は、着床に至る一連の生理的事象の中で重要なステップです。
胚盤胞あるいは透明帯の本質的な異常による孵化失敗は、ヒトの生殖効率を制限する多くの要因の1つであると考えられます。
アシステッドハッチング(AH)は、人工的に透明帯を薄くしたり、破ったりするもので、体外受精後の着床率や妊娠率を向上させる技術の一つとして提案されています。
胚移植当日にレーザーAHで行われるのが最も一般的です。
AHは理論的には有益ですが、胚盤胞へのダメージによる胚の生存率の低下などの合併症を伴う可能性があります。さらに、透明帯の人工的な操作は、一卵性双胎児のリスク上昇と関連しています。
AHは新鮮胚移植の出産率を向上させますか?また、その恩恵を受ける患者層はありますか?
概要説明
・非選択的患者集団における妊娠率を評価した研究では、AHを受けた胚と受けていない胚の間で出産率に有意差はないことを示す中程度の証拠があります。
・予後不良の患者において、レーザーAHによる出産率の改善に関しては、データはまちまちです。
推奨事項
・体外受精を受けるすべての患者に対して、レーザーAHをルーチンに推奨すべきではありません。
・予後不良の患者など、特定のグループに対して推奨するためのデータは不十分です。(エビデンスの強さ:B/C;推奨の強さ:中程度)。
AHは凍結胚移植の出産率を向上させますか?また、恩恵を受ける患者層はありますか?
概要説明
・凍結胚移植を受けている患者において、レーザーAHによる出産率の改善に関するデータはまちまちです。
推奨事項
・凍結胚移植周期において、レーザーAHを推奨するにはデータは不十分です。(証拠の強さ:B;推奨の強さ:中程度)。
AHは一卵性双胎児を増加させますか?
概要説明
・AHによる一卵性双胎児のリスクに関するデータはまちまちです。
・いくつかの研究から、AHで一卵性双胎児の発生率が高くなることを支持する証拠が得られています。しかし、同じ数の研究は、AHによる一卵性双胎児の増加はないことを示唆しています。
推奨事項
・この転帰はまれであり、利用可能な研究結果が矛盾しているため、AHが一卵性双胎児と関連していると明確に結論づけるには証拠が不十分です。(証拠の強さ:B;推奨の強さ:中程度)。
AHは生殖補助医療に有効か?
- AHにより妊娠率が向上するという報告もあり、現時点では症例に応じて施行が許容される。(B)
- AHにより多胎妊娠が増加する可能性を否定できない。(C)
推奨レベル(B);実施すること等が勧められる
(C);実施すること等が考慮される
卵子や胚は、「透明帯」と呼ばれる殻に囲まれています。
卵子と精子の受精後は、胚は透明帯内で分割が進みます。初期胚の透明帯は、胚の発育に伴って伸展、菲薄されます。胚盤胞に達した後は、着床する直前に透明帯の一部に亀裂が生じて、胚自体が透明帯を開口脱出(孵化)して着床に至ります。
この過程は生理学的な現象として起こりますが、次のような状況では「透明帯硬化」といわれる質的変化が起こり、ハッチング障害による着床の妨げになると考えられています。
1)加齢による変化で卵子や胚が硬化し、質が低下する恐れがあります。
2)長期間の体外培養で、卵子や胚が硬化する恐れがあります。
3)凍結融解胚移植の場合、凍結保護液や液体窒素に曝露されることによる硬化や、その中で長期間貯蔵されることにより硬化することが報告されています。
これらによる透明帯の硬化により、受精卵、特に胚盤胞の孵化が阻害されて着床率低下などの影響が懸念されるため、透明帯の一部もしくは全体を菲薄する、または開口することで孵化を促進させる技術が補助孵化法です。
補助孵化法(アシステッドハッチング)の方法
・・・レーザー法・・・
小さいと出られないよ😢
レーザーを用いて透明帯を菲薄または、開口します。
レーザーを照射する範囲が小さく不十分な開口の場合は、開口部分に胚が引っかかって完全な孵化にならない場合があります。
胚への熱影響を与えないように注意しながら、胚から最も離れた部位に十分な大きさを開口します。
津田沼IVFクリニックでは初期胚では半周を菲薄、胚盤胞では半周を開口します(初期胚は開口するとバラバラになります)。
これにより、容易に孵化すると考えます。
補助孵化法(アシステッドハッチング)の適応
孵化障害が着床不全の原因と考えられる場合
・凍結融解胚移植(凍結保護液や液体窒素に曝露されることによる硬化や、その中で長期間貯蔵されることにより硬化する)
新鮮胚移植では必要ありません。
・反復生殖補助医療不成功、反復着床不全(孵化障害)
・高年齢(加齢による透明帯硬化)
補助孵化法(アシステッドハッチング)の発生異常
・胎児奇形への影響はありません。
・原因は特定されていませんが、一卵性双胎児の発生が高まるとする報告があります。
エビデンス
海外では、補助孵化を推奨しないとする見解が大勢を占めます。補助孵化に妊娠・出生率を改善するエビデンスがないと結論づけています。
一方、臨床的妊娠率にわずかな上昇、特に、胚移植不成功例や、卵細胞質内精子注入法、透明帯の完全除去で、補助孵化の有効性が高いという報告もあります。
補助孵化による流産率の上昇は認めません。
補助孵化と多胎妊娠増加の関連が指摘されていますが、 現時点では十分なエビデンスはありません。
これらの結果から、補助孵化は対象により妊娠率の向上が期待されるほか流産率の上昇を認めないことから、症例によっては補助孵化が有用である可能性も考えられる。(日本生殖医学会)
まとめ
AHは、妊娠率の向上が期待される一方、流産率の上昇は認めません。つまり、施行して不利になることはありません。
何もしないと一歩も前進しません。ハードルは一つでも前もって倒してから走りましょう。