WHO精液検査の地理的変動

世界保健機関(WHO)の精液分析基準範囲に使用されたデータから見た精液パラメーターの地理的変動

Geographic variation in semen parameters from data used for the World Health Organization semen analysis reference ranges (fertstert.org)

 

 

WHOの2021年マニュアルで使用されているさまざまな研究の地理的分布

 

日本人被験者は0人です。

 

 

地域間の精子パラメータの分布 すべての比較でP<.001

 

精液量は、アジアとアフリカで、有意に少なかった。

 

 

精子濃度は、アフリカで最も低く、オーストラリアで最も高かった。

 

 

総運動精子数(TMSC)および総運動性進行性精子数(TMPS)は、アフリカで有意に少なかった。

アジアと米国のTMSCTMPSは、ヨーロッパとオーストラリアよりも有意に低かった。

 

 

各地域における精子パラメータの5パーセンタイル

精子濃度の5パーセンタイルは、米国で最も低かった(12.5 × 106/mL)。

正常な精子形態の5パーセンタイルは、米国で最も低く(3%)、アジアで最も高かった(5%)。

 

 

TMSCとTMPS5パーセンタイルは、アフリカ(TMSC1508万、TMPS1206万)と米国(TMSC1805万、TMPS1686万)で最も低く、オーストラリア(TMSC2961万、TMPS2580万)で最も高い値を示している。

 

 

まとめ

 

「精子パラメータには地理的に大きな差があり、地域の不妊学会は地域の経験や治療成績に基づいて独自の基準範囲を追加することを検討すべきです。」と書かれています。

 

 

WHOの精液検査について

 

WHOの精液検査に参加した男性はすべて、12か月以内というごく最近にパートナーが妊娠した方で、パートナーの妊娠判明後に検査を受けています。つまり、参加した3589人の中で、最も所見の良くなかった方もパートナーが妊娠しています。

さらに、パートナーが妊娠した時の精液と、検査した時の精液は当然ながら別物です。精液所見は10倍以上の変動が見られることがありますので、例えば、検査では5パーセンタイル以下の方の精液所見が、妊娠時の精液所見と大きく異なり、とても良い所見であった可能性があります。

また、精液検査所見は人種によって、かなりの違いがあるとされますが、日本人のデータは入っていません。

津田沼IVFクリニックは、赤ちゃんをご希望される方のためのクリニックですので、多くの男性はパートナーが妊娠したことがない、少なくとも12か月以内に妊娠していない方ですので、WHOの妊孕性判明の方の下限基準値の表は、治療選択の点からは適当ではないと考えています。そもそもWHOは、不妊症治療のためにデータを提供しているわけではありませんし、日本人のデータでもありません。

WHO 「本書は、男性因子不妊症の治療法の選択として臨床的判断を行うためのガイドラインではありません。」としています。

 

 

当クリニックの精液検査の基準値は下のようですが、タイミング治療、人工授精、体外受精、顕微授精などの治療の選択を行う上で、治療結果とよく相関していると考えています。複数回の検査結果や、パートナーの検査結果、これまでの経過、ご希望などを総合的に評価して、お二人にとって最適な治療方法をご相談していきましょう。

先述しましたように、精液所見は大きく変動します。人体の中で最も変動の大きい検査で、他には無いと思います。

精液検査結果が悪くても、パートナーが自然妊娠や人工授精での妊娠されることはよくありますし、逆に精液検査結果が正常でも、パートナーがなかなか妊娠に至らないこともよくあります。

夫婦生活の際の精液所見が、検査時とは異なり、良好であったと推定されることもよくあります。月に一度の排卵日を、不安に思わず大切にしましょう。

 

 

 

「WHO精液検査の地理的変動」  津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)