2022/08/29
新型コロナウイルス感染症 COVID-19
診療の手引き 第8.0版 July2022
妊娠・出産・産褥等に関する記述の抜粋
重症化のリスク因子
妊娠・産褥はエビデンスレベル高の重症化リスク因子です
主な重症化のリスク因子(日本)
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妊娠後半期
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重症化に関連する基礎疾患など(米国)
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妊娠・産褥(エビデンスレベル 高)
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妊婦例の特徴
妊婦が同年齢の女性と比較して、特にCOVID-19に罹患しやすいということはありません。
妊娠後半期に感染すると、早産率が高まり、重症化しやすくなります。
妊娠初期・中期の感染で胎児に先天異常を起こすという報告はなく、子宮内感染も稀です。
感染妊婦中、軽症73%、中等症Ⅰ 13%、中等症Ⅱ 12%、重症1.3%でした。母体死亡はありませんでした。特にデルタ株を主体とした流行において、中等症Ⅱ・重症例が多くみられました。
31歳以上、妊娠21週以降の感染、妊娠前BMI 25以上、喘息を中心とする呼吸器疾患等の併存疾患(既往・現症の存在など)が重症化のリスク因子でした。欧米ではこれに加えて、人種や喫煙歴、妊娠高血圧症候群、妊娠性糖尿病、血栓傾向などがリスク因子として報告されています。感染妊婦中、86%がワクチン未接種で、中等症Ⅱ・重症のすべてが未接種でした。
諸外国の統計では、妊娠中のワクチン接種は新生児の入院リスクを
減少させます。死産、あるいは母児ともに生命にかかわる事態に陥った
のは、すべて未接種者であったと報告されています。
諸外国でもわが国でも、妊娠中のワクチン接種による母体と胎児・新生児に対する奇形や流早産などの重篤な有害事象の増加はありません。
日本産科婦人科学会・日本産婦人科感染症学会では、すべての妊婦に
週数を問わず、積極的なワクチン接種を推奨しています。
COVIREGI-JP/ REBINDにおいても、女性(15~45歳未満)入院患者の解析から、妊娠群が非妊娠群より中等症・重症患者の割合が高いことが判明しました。また、感染妊婦を軽症群と中等症・重症群で比較したところ、妊娠中期(14週)以降、基礎疾患(喘息、糖尿病、高血圧など)の存在が中等症・重症と関連していました。
入院勧告・措置の対象
届出に基づき、都道府県知事等が入院勧告・措置できる対象として、重症化リスクの高い患者や中等症・重症の患者等が定められています
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妊婦
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妊産婦の管理
COVID-19に感染した妊婦の多くは無症状もしくは軽症のままに経過しますが、一部は特に妊娠の後半期に重症化し、死産や本人の生命にかかわる事態に陥ります。これはデルタ株のみならず、オミクロン株でも同様です。
無症状あるいは軽症で、自宅療養・宿泊療養中の妊婦を訪問する、あるいは電話やインターネットによる遠隔診療を行う医療者は、呼吸状態、心拍数や呼吸数とその変化などの急速な病状の進行を疑う症状、あるいは産科的異常を示唆する症状を確認する必要があります。可能であればパルスオキシメーターで血中酸素濃度を自己測定し、SpO2が95%を下回る状態が続く場合は連絡をさせます。また、妊娠の時期を問わず、性器出血、持続する・あるいは周期的な腹部緊満感・子宮収縮感、破水感・胎動の減少などがある場合、妊婦健診を受けているかかりつけの産科医に直接相談するように指導する必要があります。
かかりつけの産科医は、COVID-19に感染した妊婦が上記のような相談をしてきた場合、速やかに地域のCOVID-19に係る周産期医療体制の関係者と連携して、適切な診察・医療を受けることができる施設への緊急搬送、あるいは自院への受診を指示すること。
COVID-19に感染した妊婦に、必ずしも産科的な管理が必要ではなく、COVID-19患者として内科病棟等に入院する妊婦については、呼吸数、心拍数の漸増は妊婦の代償機能が働いている徴候であるとされており、その推移に注意すること。また、酸素飽和度を適切な値(SpO2 95%以上)に保つことができるように留意します。児の娩出時期や分娩方法、妊婦に対する薬物療法については産婦人科医、小児科医と密接な連携をとる必要があります。
COVID-19に感染した妊婦から出生した新生児の管理については、出生直後に母親から新生児を隔離し、PCR検査を実施し、2回陰性を確認することで、濃厚接触とはなりません。
妊婦に対する薬物療法 1)有益性投与
【レムデシビル】アメリカ国立衛生研究所の指針では投与可能とされています。
【ニルマトレルビル/リトナビル】動物実験で胎盤関門を通過することが報告されています。併用禁忌薬が多いことから、同時に処方される薬剤に留意します。
【中和抗体薬 カシリビマブ、イムデビマブ、ソトロビマブ】アメリカ国立衛生研究所の指針では中等度の推奨と記載されています。
【トシリズマブ】動物実験で胎盤関門を通過することが報告されています。
【デキサメタゾン(ステロイド)】適応は中等症Ⅱ~重症のみです。デキサメタゾンは成人患者の死亡率低下に最も実績がありますが、胎盤通過性を有します。短期投与なら胎児に与えるリスクは小さいと考えられ、アメリカ国立衛生研究所の指針では人工呼吸を要する患者に強い推奨、人工呼吸を要しないが酸素投与を要する患者に中等度の推奨と記載されています。プレドニゾロンは胎盤通過性は低いとされ、英国産婦人科学会の指針では、胎児肺成熟の必要性に応じた使い分けが示されています。
〈アメリカ国立衛生研究所指針〉デキサメタゾン6mg内服または静注1日1回10日間 または 退院までの早い方
〈英国産婦人科学会指針〉
・胎児肺成熟の適応がない場合:プレドニゾロン40mg内服 1日1回/またはヒドロコルチゾン80mg静注 1日2回/10日間 退院までの早い方
・胎児肺成熟の適応がある場合:①デキサメタゾン6mg筋注 12時間毎 4回投与/②次いで、プレドニゾロン40mg内服 1日1回、または ヒドロコルチゾン80mg静注 1日2回、①②を合わせて10日間 または 退院までの早い方
妊婦に対する薬物療法 2)禁忌
【バリシチニブ】動物実験では催奇形性が報告されており、妊婦への投与は禁忌である。
【モルヌピラビル】動物での非臨床毒性試験において、胎児の体重減少、流産、奇形などの影響が報告されています。妊婦または妊娠している可能性のある女性には投与しないこと。また、授乳婦については、治療上の有益性および母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討すること。なお、臨床試験では参加者に対して、服用中および服用後4日間の避妊を行い授乳を避けることが指示されていました。
妊婦および新生児への対応
COVID-19は特に妊娠後半期には増大する子宮で横隔膜が挙上するために呼吸不全を起こしやすい。
新生児に産後の感染リスクがありますが、母子分離を行なってきた日本においては新生児の発症はきわめて限定的です。
帝王切開の適応など分娩方法については、母子および医療スタッフの安全と医療体制の維持などに十分に配慮し、個別に産婦人科主治医が判断します。
感染対策
妊婦健診、出産に際しては標準予防策を遵守します。
感染が疑われる患者と、他の患者(妊婦健診来院者)とは動線や待合室を分け、感染の有無にかかわらずマスクを着用してもらいます。特に症状のある患者や濃厚接触者は、来院前に電話相談を受け、他の患者と別に診療します。
産科医療機関における院内検査としてPCRあるいは迅速性のある抗原検査を推奨しますが、全妊婦に行うかどうかは地域の感染状況により個別に判断します。
感染者(疑い患者も含む)の分娩では分娩室は個室とし、換気を十分に行います。陣痛室や出産後の回復室もトイレつき個室とし、医療スタッフは院内感染予防のため手袋、マスク、ガウン、ゴーグル(またはフェイスシールド)、必要に応じてN-95マスクを着用します。
非感染者の分娩では産婦が必ずしもマスクを着用する必要はありませんが、分娩スタッフは十分なPPEを着用します。
COVID-19感染がなくても、帰省分娩、配偶者の立ち合い分娩は推奨しませんが、地域の感染状況によって個別に判断します。
感染妊婦では、母体の感染性が消失するまで新生児との接触は避けることが望ましい。ただし、母子同室の希望がある場合は、施設の感染対策等の状況を考慮して個別に判断することも許容されます。
新生児に感染が疑われる場合は、個室隔離、または保育器で管理とします。
感染者の授乳については、母親が解熱し状態が安定していれば、手洗いなどを確実に行ったうえで搾乳し、介護者により母乳を与えることは可能であるが、感染リスクについては十分なインフォームドコンセントを得ます。
「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」 津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)