2022/06/06
IVM(未成熟卵体外成熟)
未成熟卵体外成熟(IVM;in vitro maturation)とは
IVMは、無刺激または低刺激の卵巣の小卵胞から未成熟卵を採卵し、体外で成熟させた後に受精を行う方法です。
卵巣刺激が無いまたは少ないために、卵巣過剰刺激症候群OHSSが起こらないこと、注射の苦痛や経済的負担が軽減されることなどが利点とされます。
OHSSの危険性の高い多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や多嚢胞性卵巣を有する場合(PCO)などでの実施が考慮されます。
未成熟卵体外成熟:アメリカ生殖医学会の見解
In vitro maturation: a committee opinion – Fertility and Sterility (fertstert.org)
IVMの候補にはPCOSやPCO様卵巣を持つ女性など、OHSSのリスクのある女性も含まれる可能性があります。
エストロゲン感受性癌の場合、あるいは性腺毒性のある癌治療を受ける前に妊孕性温存を開始する時間が限られている女性におけるIVMの有効性は、まだ明らかではありません。
IVMはこれらの女性にとって、刺激周期の短縮、注射回数の減少による患者負担の軽減、それに伴う薬剤費やモニタリング費用の削減を可能にする代替治療プロトコルとなります。
IVMは特定のトレーニングによって得られた専門知識を持つ者が提供すべきであり、常に期待される結果についての適切なカウンセリングとインフォームドコンセントを伴うべきです。
この技術はもはや実験的なものとは考えられていません。
IVMはすべての患者に適用できるわけではなく、AFCの高い患者のみが良い候補となります。
しかし、現時点では、胚盤胞到達率が低く、着床率や妊娠率が従来の体外受精に比べて低下する可能性があることを患者さんに知っておいてもらう必要があります。
新しい有望な IVM 法と通常の体外受精の臨床成績を比較する大規模な試験と、新生児の健康状態や子孫の発育成績に関する長期追跡調査が必要です。
IVMにより妊娠した子供の2年間の発達:前向き対照単盲検試験
Two-year development of children conceived by IVM: a prospective controlled single-blinded study | Human Reproduction | Oxford Academic (oup.com)
IVF(体外受精)とIVM、ICSI(顕微授精)とIVMの子どもの精神発達に差は見られませんでした。
多嚢胞性卵巣と診断された患者に対する標準的な体外受精の代替法としての体外成熟:新鮮、凍結、累積周期の治療成績の比較分析
In vitro maturation as an alternative to standard in vitro fertilization for patients diagnosed with polycystic ovaries: a comparative analysis of fresh, frozen and cumulative cycle outcomes | Human Reproduction | Oxford Academic (oup.com)
新鮮胚移植周期では、生化学的妊娠率、臨床的妊娠率、流産率に両治療群間の差は統計学的に有意でありませんでした。
IVM群では標準的なIVF治療と比較して、新鮮胚移植周期での生児出生率が有意に低値でした(18.8対31.0%、P=0.021)。
凍結胚移植(FET)周期では、生化学的妊娠率、臨床的妊娠率、生児出生率、流産率に両治療群間の差は統計学的に有意ではありませんでした。
累積生化学的妊娠率(67.5 対 83.7%, P = 0.018)、臨床的妊娠率(51.3 対 65.3%, P = 0.021) および生児出生率(41.3 対 55.1%, P = 0.005 )は標準IVF治療群と比較してIVM群で有意に低いことが確認されました。
累積流産率については、両治療群間に全体的な差はありませんでした。
新生児予後については治療法間に差はなく、卵巣過剰刺激症候群の発生率はIVM群で有意に低値でした(0 vs 7.1%, P < 0.001)。
OHSS予防(1)
・・・卵巣刺激中に卵胞ホルモン値が著しく高値となったり、急に上昇したり、または発育卵胞数が著しく多い場合など・・・
1.hCGの使用を、卵胞ホルモン値が2,500pg/mL未満になるまで延期するcoasting法を検討します。延期期間が3日間以内なら妊娠率は低下しません。
2.hCGの使用量を5,000IU以下にします。
3.hCGを中止し採卵をキャンセルします。
4.排卵惹起にhCGが必須のロング法やショート法では、OHSSが比較的起こりやすいので、hCGが必須でないアンタゴニスト法、黄体ホルモン使用卵巣刺激法や、低卵巣刺激法である内服薬などを検討します。hCGの代わりに、GnRhアゴニスト点鼻薬で内因性黄体化ホルモンサージで排卵を惹起します。
5.PCOSやOHSS既往のある症例に対して注射による排卵誘発を行う際には、黄体化ホルモンの入っていない薬品を用いたり、低用量ずつゆっくりと徐々に増加していったり、一日おきに使用するなどの使用法を選択します。
6.新鮮胚移植を行った場合は、黄体補充にhCGではなく黄体ホルモンのみを使用します。
OHSS予防(2)
OHSSの発症予防
1.メトホルミンの併用
使用例;1日500~1500mgを内服します。
2.カベルゴリン:腹水の産生が抑制されます。アメリカ生殖医学会のガイドラインで使用が強く推奨されています。
使用例;カベルゴリン0.25mgを1日2錠、hCG使用日から8日間または採卵後から7日間内服します。
3.低用量アスピリン:アメリカ生殖医学会のガイドラインで使用が推奨されていますが、多くはOHSSの合併症の血栓・塞栓形成の抑制の目的で用いられます。
使用例;低用量アスピリン100mgを、卵巣刺激開始日から妊娠判定日まで内服します。
4.レトロゾール:卵胞ホルモン値を減少させます。を科学的根拠は十分ではありません。
使用例;レトロゾール2.5mgを1日2錠、採卵日から5日間内服します。
5.セトロレリクス、ガニレリクス、レルゴリクス:内因性の黄体化ホルモンを抑制します。採卵後3~5日目に使用します。カベルゴリンと併用すると、より有用となる可能性があります。
使用例;レルゴリクス40㎎1錠とカベルゴリン0.25mg2錠を、採卵日から5日間内服します。
OHSS予防(3)
OHSSの発症予防
6.アルブミン製剤:科学的根拠は十分ではない上に、妊娠率低下をもたらすことが報告されています。感染症やアレルギーなどに注意が必要です。
使用例;アルブミン10~50gを、採卵直後に点滴します。
7.グルコン酸カルシウム:アメリカ生殖医学会のガイドラインで使用を推奨しています。他にも、OHSSの発生率を低下させる報告があります。
使用例;10%グルコン酸カルシウムを生理食塩水100mlに混ぜて、採卵日から3日以内に点滴します。
8.ヒドロキシエチルデンプン(HES)製剤
使用例;6%HES 500ml を採卵直後から2日以内に点滴します。
9.全胚凍結(新鮮胚移植をしない。妊娠すると身体(絨毛)からhCGが分泌されて、重症化や遷延しやすい。):アメリカ生殖医学会やヨーロッパ生殖医学会のガイドラインで推奨されています。
現在のところ、IVMはIVFの成績には及んでいません。麻酔や手術時間も長くなります。歴史が短く、症例数も多くありません。
IVMはOHSSが起こらないことが最大の利点ですが、採卵数が多くても入院を要するような重症OHSSはほとんど起こりません。
PCOSに対しても、十分にOHSSに配慮すれば、通常のIVFやICSIで良いと考えます。
https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12746734495.html