NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査) 出生前診断の提供等に係る体制の構築に関する研究

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NIPT 非侵襲性出生前遺伝学的検査

 

令和 3 年度 厚生労働科学研究費補助金

( 成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業 )

「出生前診断の提供等に係る体制の構築に関する研究」

 

本冊子は公益社団法人 日本産科婦人科学会、公益社団法人 日本小児科学会、 一般社団法人 日本人類遺伝学会 の協力で作成されています。

NIPT説明書(冊子版) (med.or.jp)

 

 

はじめに

 出生前におなかの中の赤ちゃんが染色体疾患をもっているかどうかを確実に検査する方法として羊水検査や絨毛検査がありますが、これらは流産などの危険性を伴う検査(子宮に針を刺す検査)です。そこで、危険を伴わずに赤ちゃんが染色体疾患をもつ可能性を検査する方法が開発されており、その一つが NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)です。

 この説明文書には、NIPT をお受けになるかどうかを決めるために知っておいていただきたいことや注意していただきたいことが記載されています。

 

NIPT の概要

  • NIPT はおなかの中の赤ちゃんが染色体疾患をもつ可能性をみるための検査です。
  • 検査対象となる染色体疾患は 21 トリソミー、18 トリソミー、13 トリソミーです。
  • 妊娠 9 10 週以降に妊婦さんから 10 20ml の血液を採取して、血液中に浮遊している cfDNA(染色体が細かく分解されたもの)を分析して結果を出します。
  • 結果は「陽性」、「陰性」、または「判定保留」と報告されます。「陽性」とはその疾患の可能性が高いという意味です。
  • 妊婦さんの血液中に浮遊している cfDNA のうち約 10%が赤ちゃん由来ですが、正確には胎盤に由来します。そのため NIPT は精度の高い検査ではありますが、染色体疾患の可能性の高さを判定しているにすぎません。
  • 検査結果が「陽性」の場合には、羊水細胞や絨毛細胞を用いた確定検査が必要です。また、「判定保留」の場合には、その後に取りうる対応について再度相談する必要があります。

 

染色体とは

  • 多くの人の染色体は 46 本で、常染色体(1 22 番染色体)のペアと、性別によって異なる染色体(XY 染色体)のペアからなっています。
  • 染色体には多くの遺伝子(ヒトの体や働きの設計図)が詰まっています。
  • 染色体に数や形の変化が起こると、成長や発達に影響を与えたり、生まれつきの病気や体つきの特徴をもつことがあります。
  • 「トリソミー」とは本来 2 本(ペア)である染色体が、3 本ある状態で、例えば 21 トリソミーとは、21 番染色体が 3 本ある状態のことです。「トリ」とは3をあらわします。

 

 

NIPT でわかること・わからないこと

  • NIPT 21 トリソミー、18 トリソミー、13 トリソミーの染色体疾患の可能性を調べる検査で、それ以外の疾患はわかりません。

 ▶生まれて来る赤ちゃん 100 人中に 3 5 人ほどは先天的な疾患をもっ て生まれてきます。

 ▶この中で染色体が原因の疾患は約 25%で、NIPT の検査対象である 3 つの染色体疾患は、さらにその約 70%です。このことを計算してみると、3つの染色体疾患のある赤ちゃんは100 人あたり 0.7 人程度となります。

 

母体年齢とトリソミー児の出生頻度の関係

  • 妊婦さんの年齢が上昇すると、トリソミーをもつ赤ちゃんの出生頻度が高くなることが知られています。
  • それ以外の染色体疾患では、その影響は明らかではありません。

 

私たちの多様性と先天性疾患

  • 染色体が原因となる生まれつきの変化を含め、赤ちゃんが先天性疾患をもつことは誰にでも起こりえることです。そのことにより赤ちゃんが多くの人とは違った特徴を示すことがありますが、それは誰もがもつ人としての多様性、その人の個性の一部として受け入れるべきものです。また、誰もが誕生を祝福されるいのちをもっているのです。
  • 生まれつきの変化によって人とは違った特徴をもつことが生き辛さにつながる可能性は否定できません。その一方で人の幸不幸はそういった特徴のみで決められるものではないとも言えます。
  • どのような境遇にあろうと、みな我々と共に生きる社会の一員であり、お互いを認め合い、助け合う社会を実現するために行政による公的福祉サービスが用意されています。
  • 一方で、さまざまな事情により、生むことをあきらめる選択をする方もおられますが、その選択も尊重されるものです。妊娠の継続や中断については、経験者などによる、いわゆるピアサポートを行う団体もあります。

■親子の未来を支える会 (https://www.fab-support.org)

 

 

検査対象となる疾患の特徴

 

21 トリソミー ( ダウン症候群 )

  • 一般的に、約 1000 人に 1 人の割合で出生するといわれています。
  • 生後の身体や言語の発達は全体的にゆっくりですが、適切な成育環境(療育など)によって成長発達を促すことができます。
  • 心疾患、消化器系疾患などの病気をもつ場合があります。しかし最近は医学の進歩により、多くは乳幼児期に改善するようになっています。
  • 学齢期は地元の学校や特別支援学校に通っています。
  • 大人になると生活介護が必要になることもありますが、行政によるサポートを受けながら地域の中で生活する方も多く、生涯に渡ってさまざまな支援サービスが用意されています。
  • 小児慢性特定疾病(P7 下サイト参照)に認定されており、医療、福祉、当事者のコミュニティなどのサポート体制があります。
  • 各地には親の会やサークル活動などの情報交換の場があり、福祉のサポート体制も整っています。

■公益財団法人日本ダウン症協会(https://www.jdss.or.jp

■ヨコハマプロジェクト (https://livingwds.info/)

 

18 トリソミー(エドワーズ症候群)

  • 一般的に4,00010,000人に1人の割合で出生するといわれています。
  • 妊婦健診で行われる超音波検査で赤ちゃんの発育不全や心疾患、消化器系疾患、四肢の形態変化などを認めることからみつかることがあります。
  • 複数の病気を持って生まれてくることがあり、呼吸や哺乳のサポートなど、生後早期に医学的な管理が必要になることがあります。
  • 心疾患や呼吸不全などの病気のため、生後早期に亡くなることがあります。一方、積極的な医療介入により生命や生活の見通しが改善すると報告されており、一部で長く生存して成人を迎える方もいます。
  • 運動面・知能面での遅れを示しますが、医学的な管理を継続しながら特別支援学校に通学し、成長と共にゆっくりと発達をとげます。
  • 小児慢性特定疾病(P7 下サイト参照)に認定されており、医療、福祉、当事者のコミュニティなどのサポート体制があります。

18 トリソミーの会 (http://18trisomy.com/)

Team18 (https://team-18.jimdofree.com/)

 

13 トリソミー(パトウ症候群)

  • 一般的に 5,000 人~ 10,000 人に 1 人の割合で出生するといわれています。
  • 妊婦健診で行われる超音波検査によって心疾患、中枢神経・消化器系疾患などの病気、身体の形態変化などでみつかることがあります。
  • 複数の病気を持って生まれてくることがあり、呼吸や哺乳のサポートなど、生後早期に医学的な管理が必要になることがあります。
  • 心疾患や呼吸不全などの病気のため、生後早期に亡くなることがあります。一方、積極的な医療介入により生命や生活の見通しが改善すると報告されてきており、一部で長く生存して成人を迎える方もいます。
  • 一人で歩いたり、言葉を話せるようになることは稀ですが、ゆっくりと成長・発達します。
  • 小児慢性特定疾病(P7 下サイト参照)に認定されており、医療、福祉、当事者のコミュニティなどのサポート体制があります。

13トリソミーの子どもたち☆PROJECT13 (http://trisomy13.blog.jp/)

13トリソミーの子供を支援する親の会   (http://www.13trisomy.com/next.html)

■小児慢性特定疾病 [ 小児慢性特定疾病対策の概要 |厚生労働省 ] (mhlw.go.jp)

 

 

検査を受ける前に、もう一度確認いただきたいこと

  • NIPT は妊婦さんの採血のみで実施できますが、赤ちゃんの染色体疾患を出生前に調べる検査です。「陰性」以外の結果がでることで、さまざまな困難に直面する可能性があります。
  • NIPT は侵襲的で流産リスクのある羊水検査などを受けるどうか、悩む妊婦さんがその判断材料として行う検査ともいえます。
  • NIPT「陽性」とは、3 つのトリソミーのうちいずれかの可能性が高いという結果です。

 ▶この検査では診断を確定できません。診断を確定するためには羊水検査や絨毛検査を受ける必要がありますが、おなかから子宮内に針を刺す検査のため、300 分の1程度の確率で流産が起こります。

 ▶「陽性」でもその染色体疾患ではない場合もあります(偽陽性といいます)。例えば、35 歳の妊婦さんの「21 トリソミー陽性」という結果の場合でも、実際に赤ちゃんがダウン症候群ではない確率は約 20%あります。

 ▶「陽性」の結果であった場合、結果に関する詳しい説明やその後の対応について遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

  • NIPT「陰性」とは、3 つのトリソミーの可能性が低いという結果です。

 ▶︎ 3 つのトリソミーでない確率はいずれも 99.9%以上ですが、100%否定できるわけではありません。非常にまれですが、陰性の結果がでたとしても染色体疾患のある場合(偽陰性)があります。

 ▶︎ 3 つのトリソミー以外の先天性疾患も多いため、「陰性」だとしても、赤ちゃんが健康であることを示す結果ではありません。

  • NIPT「判定保留」とは、「陽性」か「陰性」かの判定ができないという結果です。

 ▶わが国のデータでは 0.3 0.4%ほどの確率で「判定保留」となることがあります。

 ▶その後に取りうる対応(再度 NIPT を行う、NIPT での検査をあきらめる、羊水検査などを行うなど)について再度相談する必要があります。

  • 検査でおなかの中の赤ちゃんに染色体疾患の可能性があることが判明しても、実際に生まれてくる赤ちゃんの症状やその後の発育の様子については個人差があるためはっきり分かりません。また、疾患の治療にも直接つながりません。
  • 検査の本来の目的は赤ちゃんの染色体疾患について調べることですが、妊婦さん自身の染色体疾患や悪性腫瘍などが、この検査を契機に発見されることがあります。
  • 検査前の遺伝カウンセリングを通じてこの検査のことをよく理解し、ご自身とパートナーにとって必要があるかどうか十分に納得したうえで、実際に検査を受けるかどうかを決めてください。
  • NIPT を受けても受けなくても、お二人で十分に検討された意思決定は最大限に尊重されます。
  • 赤ちゃんやご家族の将来に関する不安や心配については、いつでも相談に応じます。より詳しい説明を希望される場合は、施設内の小児科や外部の適切な施設を紹介することもできます。
  • 赤ちゃんに何らかの先天性疾患がある場合、さまざまな医療や公的サービスを受けることができます。なすすべがない訳ではないことを再度強調しておきます。

 

 

妊娠中の赤ちゃんの染色体疾患を調べる検査の種類とその特徴

 

 

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