抗がん剤と無精子症

抗がん剤と無精子症

 

抗がん剤は精子を作る細胞への毒性が高いため、精子を作る能力が低下して無精子症や高度乏精子症となることあります。

 

 

 

抗がん剤は、細胞分裂をさせないようにします。

 

抗がん剤はDNAの合成阻害や切断などにより効果を発揮しますが、これはがん細胞以外の健常な細胞、例えば精細胞にも及びます。

精細胞に影響しやすい抗がん剤は、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、プロカルバジン、シスプラチンなどです。

 

 

 

血液精巣関門

 

精子は精巣内の精細管の中で作られます。

精細管には精子への分化段階の精祖細胞、精母細胞、精子細胞と、分化を支持するセルトリ細胞が存在します。

セルトリ細胞同士は強く密着して、精細管の内と外とを隔てています。これを血液精巣関門と言います。精細管には血管は入りません。

血液精巣関門により、精細管内の精細胞は、外の血管からの有害物質などから守られています。精子形成に必要な物質は、精細管周囲からセルトリ細胞に入り、精細胞や精子に行きます。

 

 

 

血液精巣関門突破

 

 血液精巣関門によって精子は有害物質から保護されていますが、通過できる抗がん剤があります。

 特に、精細管の最外側にある精粗細胞は、抗がん剤に最も弱いとされています。

 

 

 

抗がん剤の精細胞への影響

 

 抗がん剤は精細胞へ影響を及ぼし、治療開始から1〜2ヶ月で精子数は急激に低下します。

 精子の遺伝子の損傷が強いため、抗がん剤開始後数ヶ月の妊娠は避けましょう。

 治療後に無精子症になることがあります。数年後に精子形成が回復する場合があります。

 

 

 

化学療法(抗がん剤)による性腺毒性のリスク分類(男性)

 

高リスク;治療後、一般的に無精子症が遷延、永続する。 

中間リスク;治療後、無精子症が遷延、永続することがある。  

低リスク;一時的な造成機能低下。

超低リスク、またはリスクなし;影響なし。

診療ガイドライン | がん診療ガイドライン | 日本癌治療学会 (jsco-cpg.jp)

抗がん剤を繰り返し使用して総量が増したり、治療前から精液所見が悪い場合などでは無精子症の遷延が生じることがあります。低リスクでも精子保存を検討しても良いかも知れません。

 

 

 

抗がん剤治療終了後、いつ造精機能は回復しますか?

 

 精粗細胞の存在状態で変わります。

 性腺毒性のリスクの少ない薬剤では、一時的な造成機能低下のため精子数は減少しますが、無精子症になることはなく34ヶ月で回復します。

 性腺毒性のリスクの高い薬剤や総使用量が多い場合には、無精子症となり回復に数年を要することがよく見られます。回復しない危険性を考慮して、精子保存をした方が良いかも知れません。

 

 

 

抗がん剤治療後の精子で、妻は妊娠できるのでしょうか? 妊娠して大丈夫なのでしょうか?

 

 抗がん剤治療後の精子は、染色体数の異常や精子DNAの損傷が多いと考えられています。

 精子が出現してくれば時間とともに改善しますので、子作りを始めて良いと考えられています。

 

 

 

精子凍結保存

 

可能ならば抗がん剤治療開始前に行いましょう。

マスターベーションにより精液を採取します。

もともとの無精子症や高度乏精子症などでは、精巣内精子採取術を行うこともあります。

妊娠するためには、凍結精子を融解して卵に注入する顕微授精を行います。治療後に十分な精子形成の回復を認めれば、凍結精子を使用せずに通常の妊娠も可能です。

 

 

 

「抗がん剤と無精子症」  津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)