関節リウマチ(RA)女性の妊娠、出産

関節リウマチ(RA)女性の妊娠、出産

 

平成30年(2018年)3月 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 (難治性疾患政策研究事業) 「関節リウマチ(RA)や炎症性腸疾患(IBD)罹患女性患者の妊娠、 出産を考えた治療指針の作成」 研究班

ishiyousshisin.pdf (ra-ibd-sle-pregnancy.org)

 

 

RA女性の妊娠

 

・妊娠は可能ですが、活動期にある場合は寛解状態に入ってからにしましょう。

・妊娠前の病状によっては、妊娠中に増悪したり、妊娠合併症と関連が見られます。

・妊娠後は、内科、整形外科、産婦人科で管理してもらいましょう。

・妊娠前に産婦人科を受診し、疾患と妊娠合併症との関連性や薬剤の胎児への安全性についてアドバイスを受けましょう。治療薬は妊娠中・授乳中に中止すべ きものと、継続可能なものがあります。妊娠中に禁忌となる薬剤を内服していれば、可能ならば変更してもらいましょう。他の薬剤に切り替えできない場合は、内服を継続した場合のリスクとベネフィットについて説明を受けましょう。

 

 

RAの妊娠容認基準

 

・妊娠中使用可能な薬剤でコントロールされ、寛解状態であることです。

・妊娠中に使用不可能な薬剤を中止する場合は、催奇形性及び胎児毒性のリスクを考慮して、薬剤中止から一定期間あけてから妊娠します。

・メトトレキサート(MTX)は、流産率の上昇と催奇形性から一ヶ月以上の休薬期間が必要です。

・総合的活動性指標で寛解、少なくとも低疾患活動性を維持してからの妊娠が望ましいとされています。

 

 

RAと不妊症

 

寛解状態では不妊症との関連性は低く、妊孕性に影響はありませんが、活動性に関連した妊孕性の低下と、妊娠成立までの期間の延長が報告されています。

治療薬のメトトレキサートは流産、児の催奇形性のリスクになりますので、妊娠を希望する場合は薬剤の変更を考慮します。

寛解状態にあれば、妊娠可能です。

 

 

RAは妊娠中・産褥期に寛解、増悪するのでしょうか?

 

・妊娠するとRAの症状は5080%で改善します。

・産褥3ヶ月以内に3990%の症例でRAが再燃しますので、妊娠中に薬剤を中止していた場合も再開が必要となることが多くあります。

 

 

RA合併妊娠の産科管理

 

RAの疾患活動性が良くコントロールされ寛解期にある場合は、妊娠合併症のリスクは一般妊婦と比較して上昇しませんので、産院での妊娠分娩管理でよいとされています。

・第3三半期にグルココルチコイド(ステロイド)製剤を使用している妊婦や、生物学的製剤を使用しても疾患活動性がコントロールできないRA合併妊娠では、胎児発育不全や早産のリスクが上昇します。産婦人科と内科、整形外科の連携が取れている場合を除いて、高次医療機関での管理が推奨されます。

 

 

RAの分娩方法

 

・通常の分娩管理で良いとされています。

・帝王切開の適応は、通常の妊娠と変わりません。

・関節破壊の進行が強く、分娩台での砕石位が困難である場合は、帝王切開を考慮します。

 

 

新生児のケア

 

・児は母体と同様の症状を呈しません。

・母体が抗SS-A抗体を有する場合は、この抗体が胎盤を介して児に移行し、出生直後から生後3か月頃に、完全房室ブロック、皮膚症状、汎血球減少などがみられることがあります。完全房室ブロック以外は一過性で、母体由来の抗体が消失する生後半年から1年までに自然に治癒します。

https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12704541429.html

・妊娠中に生物学的製剤(抗体製剤)を使用している場合は、 その影響が生後数か月残存している可能性がありますので、児の生ワクチン(BCG、ロタウイルス)の接種に注意が必要です。

 

 

妊娠中に禁忌な薬剤、安全な薬剤

 

・メトトレキサート(MTX)は、流産率の増加、催奇形性のため禁忌です。一月経周期より前に、他の薬剤への変更が必要です。

・ミコフェノール酸モフェチルは催奇形性のため禁忌です。

NSAIDは、妊娠後期で胎児の動脈管早期閉鎖の可能性があり禁忌です。

・レフルノミド、ミゾリビンは動物実験で催奇形性が示されていることから禁忌です。

・サラゾスルファピリジン、メルカプトプリン、ヒドロキシクロロキン、抗 TNFα 抗体製剤は、現時点で催奇形性が示されず、投与可能です。抗TNFα抗体製剤であるインフリキシマブはMTXと併用されますので、妊娠後は他の抗TNFα抗体製剤に変更することが推奨されます。

・シクロスポリン、タクロリムス、アザチオプリンは病状がコントロール困難であれば、投与は許容されます。

・グルココルチコイド(ステロイド)に関しては胎盤移行性の低いプレドニゾロンが推奨されます。グルココルチコイドは、プレドニゾロン換算で 15mg/日までで管理されていることが望ましいとされます。

・妊娠中の降圧剤に関してヒドララジン、αメチルドパ、ラベタロールは、安全性が示されていますので投与可能です。

・アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE 阻害剤)は、胎児・新生児死亡と関連があるために禁忌です。

 

 

妊娠中の、RAに適応を持つ薬剤のリスク(1)

 

薬剤        妊娠中の安全性の評価ならびに対応              添付文書

プレドニゾロン   グルココルチコイド (ステロイド)のなかで、プレドニゾロンは  有益性投与

          胎盤通過性が低いので推奨されます。多くの研究でステロイド

          剤の催奇形性は示されていませんが、口唇口蓋裂を僅かながら

          上昇するという報告があります。15mg/日までで管理するのが

          望ましいとされています。

NSAIDs      胎児の動脈管収縮が起こるため妊娠後期は禁忌です。COX2選  有益性投与

          択的阻害薬はエビデンスが少ないため妊娠初期・中期も避けるべきです。

メトトレキサート  流産率の増加と、催奇形性があります。服用時に妊娠した場合は、 禁忌

          安易な人工妊娠中絶の選択は避け、患者と相談し個別の対応を要します。

タクロリムス    一般的には使用しませんが、グルココルチコイド (ステロイド)   禁忌

          単独ではコントロールが困難場合は妊娠中でも投与は許容されます。

レフルノミド    動物実験において催奇形性があるとされ、禁忌です。限られた   禁忌

          報告例においては、大きなリスクは示されていないものの、安全性

          は確立していません。予期せぬ妊娠の場合には曝露を少なくする

          ためにキレート剤を用いることが推奨されます。

 

 

妊娠中の、RAに適応を持つ薬剤のリスク(2)

 

薬剤        妊娠中の安全性の評価ならびに対応              添付文書

アザチオプリン   グルココルチコイド (ステロイド)単独ではコントロールが    禁忌

          困難場合は妊娠中でも投与は許容されます。

          2mgkg 以下が望ましいとされています。

サラゾスルファ   妊娠中の使用は安全とされています。             有益性投与

ピリジン                                             

ミゾリビン     動物実験で催奇形性が示されていて、ヒトでのデータに     禁忌

          乏しいため禁忌です。

TNFα 阻害剤    催奇形性はないとする報告は多数ありますが、インフリキシマブ 有益性投与

インフリキシマブ、 はRA においては MTX 併用が必須となるため、他剤への変更が

エタネルセプト、  推奨されます。妊娠末期まで使用した場合、胎盤移行による

アダリムマブ、   影響が考えられるため、出生した児に生ワクチンを接種する際

ゴリムマブ、    には注意を要します。なお、エタネルセプ、セルトリズマブ・ペゴルでは胎児

セルトリズマ ブ・  への移行が少ないことが報告されています。

ペゴル

 

 

妊娠中の、RAに適応を持つ薬剤のリスク(3)

 

薬剤          妊娠中の安全性の評価ならびに対応              添付文書

IL-6受容体抗体    限られた報告例(180 例)ではあるものの、リスクは      有益性投与

トシリズマブ      示されていません 。

CTLA4- Ig       限られた報告例(86 例)においては、大きなリスクは      有益性投与

アバタセプト      示されていないものの、安全性は確立していません。

ヤヌスキナーゼ     動物実験で催奇形性が示されていて、ヒトでのデータ      禁忌

JAK)阻害薬     に乏しいため禁忌です。            

トファシチニブ、

バリシチニブ

 

 

生物学的製剤;最先端のバイオテクノロジー技術によって生み出された医薬品

 

・抗TNFα抗体製剤は、催奇形性は示されてなく妊娠中の全期間において使用は可能です。

・妊娠末期まで使用した場合は胎盤移行による児への影響が考えられますので、抗体の消失するまでの出生後6ヶ月に達する前のBCGやロタウイルスワクチンなどの生ワクチンの接種を控えた方が良いとされています。

 

 

薬剤使用中の授乳

 

・メトトレキセート、レフルノミドは、授乳は許容できません。

・アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬は、授乳は許容できます。

・抗TNFα抗体製剤は乳汁中への移行が少なく、新生児の消化管からの吸収も悪いため、新生児血中に薬剤が移行する量は極めて微量で授乳は許容できます。

・インフリキシマブはメトトレキサートと併用するため、授乳中は使用しにくいです。

・サラゾスルファピリジンは12g以上の高用量で、乳児に下痢を起こすことがありますので注意が必要です。

 

 

授乳リスク(1)

 

薬剤       授乳リスク   相対的乳児薬剤摂取量:母体投与量の何%   授乳について

                 が乳児に移行したかを示います。10%以下

                 であれば授乳は可能と考えられます。

プレドニゾロン  比較的安全     1.8-5.3                パルス治療中

                                      以外は授乳可能

                                      です。

NSAIDs                                  授乳可能です。

メトトレキサート 有害の可能性    0.13-0.95               授乳は不可

タクロリムス   中等度安全     0.1-0.53               移行する薬物量は

                                      非常に少ないと

                                      考えられ、授乳

                                      は可能。

レフルノミド   禁忌        記載なし               授乳は不可

 

 

 

授乳リスク(2)

 

薬剤           授乳リスク      相対的乳児薬剤摂取量    授乳について

アザチオプリン      中等度安全      0.07-0.3          授乳は可能。

                                      児の血球減少

                                      や肝障害に

                                      注意します。

サラゾスルファピリジン  中等度安全      0.26-2.73         児に血性下痢の報告がありますが、

                                      頻度は高くな

                                      いため注意し

                                      ながらの授乳

                                      は可能。

TNFα 阻害剤

  インフリキシマブ    中等度安全      0.32-3.01  授乳に関しては、現時点では

  エタネルセプト     比較的安全      0.07-0.2  まだデータが少ないために

  アダリムマブ      中等度安全      0.12    中等度安全とされているもの

  ゴリムマブ       記載なし       記載なし  が多いですが、これらの薬剤

  セルトリズマ ブ・ペゴル 中等度安全      0.04-0.30  は母乳中へ移行しにくいです。

                               セルトリズマブペゴルも母乳

                               への移行が少なく、ポリエチ

                               レングリコールも検出されま

                               せん。消化管からの吸収も悪

                               く、新生児に抗体が移行する

                               量は極めて微量で、授乳は

                               許容されます。

 

 

授乳リスク(3)

 

薬剤              授乳リスク   相対的乳児薬剤摂取量  授乳について

抗IL-6受容体抗体 トシリズマブ  中等度安全   記載なし    授乳に関してはデータが

                                 ありません。

CTLA4-Ig アバタセプト      中等度安全    記載なし    授乳に関してはデータが

                                 ありません。

ヤヌスキ ナーゼ(JAK)阻害薬   記載なし     記載なし    授乳に関してはデータが

トファシチニ ブ、バリシチニブ                   ありません。

 

 

妊娠前チェックリスト(医療者用)

 

1 現在、寛解状態である。

2 現在、以下の薬剤を使用していない。

   レフルノミド(アラバ)、トファシチニブ(ゼルヤンツ)、 ミゾリビン(ブレディニン)、シクロフォスファミド(エンドキサン)、ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(アバプロ、オルメテック、ブロプレス、ミカルディス、ディオバン、ニューロタン、タナトリル、レニベース、カプトプリル、プレラン、チバセン、ロンゲスなど)、COX2選択的阻害薬(セレコックス)、ワルファリン

3 過去1ヵ月間に、以下の薬剤を使用していない。

   メトトレキサート(メソトレキセート、リウマトレックス)

4 関節リウマチ(RA)、若年性特発性関節炎(JIA)の場合

   心、腎、肺に重大合併症がない

・すべて「はい」の場合、 妊娠を容認できる。

・「いいえ」にチェックがあるとき

「いいえ」の項目への対策を講じ、「はい」になったら妊娠を容認できる。

または

「いいえ」の項目を「はい」にするのが困難である場合 は、主治医および産婦人科医から妊娠時のリスクを十分に説明し本人と相談する。

 

 

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