2022/03/10
ターナー女性(ターナー症候群、モノソミーX、Xモノソミー)
女性のおよそ2500人に1人に認められる性染色体異常です。
Xモノソミーは99%が自然流産となり、ほとんど生まれてくることはありません。
ターナー症候群とは
細胞内の染色体は、44本の常染色体と2本の性染色体の合計46本からなります。父親から受け継いだ染色体と、母親から受け継いだ染色体が23組のペアとなっています。
性染色体にはXとYの2種類があり、女性はX染色体が2本、男性はX染色体とY染色体が1本ずつです。
ターナー症候群では、2つのX染色体のうち1つが部分的または完全に欠失しています。欠失しているX染色体の約80%は父親由来とされています。
卵胞ホルモン低値、卵胞刺激ホルモン高値
卵巣機能の低下・喪失したターナー症候群では、卵胞ホルモン値が低く、これを補おうとする卵胞刺激ホルモンが高値となります。
症状
X染色体の欠失部位によって異なりますが、低身長・翼状頸・外反肘・初経発来遅延・無月経などが見られます。
低身長;
・ほぼすべてに見られます。
・平均は約138cmです。成長ホルモン療法で平均約147cmになります。
・15歳までの思春期で身長が140cmに達した時から、少量の卵胞ホルモン補充療法を開始します。2~3年かけて卵胞ホルモン剤を徐々に増量した後に、成人と同じホルモン補充療法にします。
・成人身長に達したり、骨端線閉鎖のため身長の伸びが止まった際には、骨粗鬆症などの卵胞ホルモン欠乏症予防のために成人と同じホルモン補充療法を開始します。
翼状頸;首から肩の皮膚にたるみがあり、首が太く見えます。
外反肘;肘から先の腕が外側を向いています。
眼瞼下垂、耳の変形・回転、うなじの毛髪線低位、下あごが小さい、口蓋が高い、乳幼児期の手背・足背のリンパ浮腫、うなじのリンパ浮腫・しわ、発育性股関節形成不全、乳頭間離開と陥没乳頭を伴う幅の広い胸郭、乳房未発育、爪の低形成、手足の指の骨が短い、多発性のほくろ、脊柱側弯症などが見られることがあります。
卵巣は卵胞の喪失により萎縮しています。卵巣機能不全はほぼすべてにあり、初経発来遅延、無月経、不妊などが見られます。
10歳代で約40%、20歳代で約10%に卵胞が存在するという報告があり、特に正常核型とのモザイクやX染色体構造異常などの場合は、第2次性徴が発現することがあります。
卵胞が存在する場合は、自然に、或いは治療により妊娠することがあります。妊娠中は、母体甲状腺機能異常、肥満、糖尿病、高血圧、大動脈解離による母体死亡、流産、早産、胎児発育不全などの危険性が高くなりますので、妊娠前の循環器系の精査をクリアすれば、妊娠が許容されます。実際には、提供卵子による生殖補助医療での妊娠がほとんどと報告されています。
心臓(大動脈二尖弁)・血管(大動脈縮窄症)・腎臓(奇形、血管腫)などの異常や、中耳炎による難聴、視力障害(斜視、遠視、弱視)、毛細血管拡張(消化管出血、低蛋白)、自己免疫疾患(甲状腺炎)などを合併することがあります。
卵胞ホルモンが少ないので加齢に伴い骨量低下・骨粗鬆症・骨折、甲状腺機能異常、耐糖能異常や糖尿病、肥満、高血圧、動脈硬化などが高頻度に発症します。
知的障害はまれです。学習障害、注意欠如、多動症などが見られることが多くあります。
Xモノソミーの10~20%に構造異常Y染色体を有しますので、 性腺芽腫や未分化胚細胞腫などの性腺腫瘍が発生することがあります。性腺の経過観察や予防的摘除術を考慮します。
モザイク型染色体
いろいろな染色体が混在しています
ターナー症候群の約50%はモザイク型染色体です(45,X/46,XXまたは45,X/47,XXXなど)。
モザイク型の表現型は、典型的なターナー症候群から正常まで多彩です。
X染色体短腕の欠失が、表現型に重要な役割を果たしていると考えられています。
卵子・卵巣凍結
ターナー症候群では卵子の喪失が急速に進行します。
卵子や卵巣の凍結保存は10歳代から対象となりますので、中学生くらいまでには両親や本人へのカウンセリングを検討します。
既婚者であれば、早期の妊娠を目指す、或いは卵子や卵巣の凍結を検討しましょう。
卵子提供は海外では実績のある治療法となっています。
論文紹介
45,Xターナー症候群の患者の中に生殖能力を持つ人がいるのはなぜか?
古典的な45,X Turner症候群で、卵巣に不可解なモザイクを有する若い女の子
Why are some patients with 45,X Turner syndrome fertile? A young girl with classical 45,X Turner syndrome and a cryptic mosaicism in the ovary – Fertility and Sterility (fertstert.org)
右のグラフは、ターナー症候群のリンパ球、頬粘膜細胞、尿細胞、卵巣皮質(間質細胞、顆粒膜細胞、卵子)の解析細胞数とX染色体含有率です。
リンパ球、頬粘膜細胞、尿細胞、顆粒膜細胞はすべて45,Xでしたが、間質細胞は45,Xと47,XXXのモザイク核型でした。
卵子は減数第一分裂の前段階で停止していますので、正常は4倍体(92,XXXX)です。2つの卵子は、X染色体の半分が失われている90,XXでした。
45,Xターナー症候群で、血液などの卵巣以外での染色体検査から卵子の核型を予測することはできませんでした。
正常な卵子が存在しているにもかかわらず、解析したすべての卵胞はモザイク状の45,X/47,XXX間質組織に埋め込まれた45,X顆粒膜細胞のみを含んでいました。
論文紹介
ターナー症候群における、妊孕性温存の意思決定のための系統的アプローチ
Fertility preservation in girls with Turner syndrome: limitations, current success and future prospects – Fertility and Sterility (fertstert.org)
ターナー症候群で、卵巣予備能が枯渇する前に早期介入し、卵子凍結保存が可能な年齢まで延期できるような手順を開発しました。
この手順に基づき、私たちは血清抗ミューラーホルモン(AMH)の測定を含む最初の卵巣予備能の評価を実施します。
思春期前において、卵巣予備能が年齢相応と思われ、血清AMH値が2ng/mL(5〜13歳で下4分の1)より高ければ、血清AMHを定期的にモニターします。
AMH値が著しく低下していなければ、適切な年齢での卵子凍結を計画します。
思春期を迎える前にAMH値が急激に低下し、卵子凍結が現実的に不可能な場合は、卵巣組織採取による凍結保存と、小卵胞穿刺による胚胞卵子の体外成熟と卵子凍結の補助を検討することにしています。
思春期以降の女性では、卵胞喪失のリスクが非常に高いため、AMH値にかかわらず卵子凍結保存を主に推奨しています。
卵巣予備能が十分に高い場合、両親や患者が生殖腺機能と自然妊娠の可能性の保存を特に希望する場合、卵巣組織凍結を卵子凍結の補助として検討することもあります。
論文紹介
ターナー症候群の女性480人における自然妊娠の可能性と妊娠の結果
Spontaneous fertility and pregnancy outcomes amongst 480 women with Turner syndrome (silverchair.com)
27人(5.6%)が合計52件の自然妊娠を経験しました。このうち、流産は16例(30.8%)、満期分娩は18人30例(57.7%)でした。
母体合併症は30例中、妊娠高血圧症候群が4例(13.3%)、2例が軽症の子癇前症(6.7%)、妊娠糖尿病が1例(3.3%)でした。
帝王切開は14例(46.7%)で実施されました。
新生児の合併症はなく、出生時体重の中央値は3030gでした。
核型分析は女児11人に実施され、2人がターナー症候群でした。
論文紹介
思春期を回避し、7歳で卵子凍結保存を行った方法
Bypassing physiological puberty, a novel procedure of oocyte cryopreservation at age 7: a case report and review of the literature (fertstert.org)
ターナー症候群モザイクの7歳の思春期前の女児で、成熟卵子の凍結保存をすることができました。
この方法は、視床下部–下垂体–卵巣軸の思春期成熟を迂回して、直接卵巣を標的にし、成熟卵巣卵胞を獲得するものです。前思春期の女の子における卵子成熟の誘導は、組換え性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモン)およびヒト絨毛性性腺刺激ホルモンによる卵巣刺激後に実現可能です。
この方法は、ターナー症候群のような妊孕性温存を必要とする思春期前の少女や、卵巣組織凍結保存が禁忌とされるケースに新しい治療方法を提供するものです。
論文紹介
腹腔鏡下に性腺を摘出した性染色体異常(モザイク)の2例
日本産科婦人科内視鏡学会雑誌Vol.25 No.1; 272-276, 2009. (jst.go.jp)
モザイク症例の中でY染色体成分を伴う場合、性腺芽細胞腫や未分化胚細胞腫を発症する危険性があり、性腺摘出の適応となります。
性染色体異常による性腺分化異常や性腺形成不全では、Y染色体成分がある場合に性腺腫瘍を生じる危険性があるとされています。その中でも性腺分化異常で性腺が腹腔内にある場合は、悪性腫瘍の発生率は15~35%、Turner症候群にY染色体成分を伴う場合は12%と報告され、いずれも予防的性腺摘出の適応となります。
「ターナー症候群」 津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)