漢方薬について

・・・自粛中の妊娠準備のために・・・

  今日のお勉強は、「漢方薬について」です。

 

不妊症治療に漢方薬を併用して妊娠に至る例をたびたび経験します。

不妊症治療では、漢方薬の併用で体調が良くなれば妊娠率が上がります。妊娠率を上げるために、「冷え」と「むくみ」を改善させることが第一です。

 

◎代表的な漢方薬

・「四物湯」の構成生薬は、「当帰」「川芎」「芍薬」「地黄」です。月経調整(補血)作用で子宮内膜を厚くし、卵を成熟させます。「当帰」は芳香性で月経調整作用があり、月経異常を訴える女性には重要な生薬です。「川芎」は月経調整・鎮痛作用をもちます。「芍薬」は鎮痛・鎮痙作用をもち、月経時の痙攣痛に有用です。「地黄」は卵と子宮内膜などの滋養に重要で、血糖降下作用もあります。

・「当帰芍薬散」の構成生薬は、「当帰」「川芎」「芍薬」「蒼(白)朮」「茯苓」「沢瀉」です。「蒼(白)朮」は健胃・利尿(利水)作用などをもちます。「茯苓」は利尿(利水)・鎮静作用をもち、めまいや動悸にも有効です。 「沢瀉」は利尿(利水)・抗炎症(清熱)作用などをもちます。

・「八味地黄丸」の構成生薬は、「地黄」、「山茱萸」、「山薬」、「沢瀉」、「茯苓」、「牡丹皮」、「桂皮」「附子末」です。人の老化予防(補腎虚)に頻用され、女性の卵の若返り薬として用いられます。「山茱萸」には強壮・止汗、免疫賦活作用などがあり、「山薬」(山芋)は食用にされて滋養・強壮と健胃作用をもちます。「牡丹皮」は消炎(清熱)性の血流を改善させる作用をもち、駆瘀血薬(活血)といわれます。「桂皮」(シナモン)は芳香性で、発汗・健胃に加えてのぼせを治す作用をもちます。「附子末」は強心・鎮痛・利尿作用に加えて温める作用が強くあります。

 

◎有効性(正書より)

・当帰芍薬散は、①第一度無月経、②無排卵周期症、黄体機能不全に用いられ、それぞれの排卵率と妊娠率は、①44.4%22.2%②37.873.7%20.021.4%、③33.353.8%17.933.3%でした。

・温経湯は、第一度無月経、②黄体機能不全、③多嚢胞性卵巣症候群に用いられ、それぞれの排卵率と妊娠率は、①5060%18%、②36.492.3%36.446.7%、③57.9%14.3%でした。

・桂技茯苓丸は、①第一度無月経と無排卵周期症に用いられ、それぞれの排卵率と妊娠率は、①4075%2035%、②4875%2534%でした。

・芍薬甘草湯は、①多嚢胞性卵巣症候群と②高アンドロゲン血症に用いられ、それぞれの排卵率と妊娠率は、①50.088.3%12.538.9%、③43.3%17.6%でした。また、高テストステロン血症を伴う無排卵症に使用したところ、テストステロン値の有意な低下が報告されています。

・柴苓湯は多嚢胞性卵巣症候群の24例中21(87.5%)に排卵を認めたと報告されています。

 

◎適応

・便秘:女性の便秘には桃核承気湯がよく使われますが、流産の可能性が指摘されていますので、不妊治療中には潤腸湯が良いと思います。腸を潤して硬便を水分を多く含む軟便に変え、便通を改善します。また、「大黄」が頻用されますが、便通に応じて少量から用います(0.5g程度)

・浮腫(むくみ):一般的な冷えやむくみでは五積散が有用です。足が冷えてしもやけをきたし、さらに下腹も冷える女性には当帰四逆加呉茱萸生姜湯が有効です。

寒くて身体が冷えて元気がなく、下半身がむくみやすい場合には、真武湯が効果を示します。また、下半身が冷えむくんで腰が重いときには苓姜朮甘湯を用い、重症ならば両者の併用が有効です。

・イライラ・不安:女性のイライラ・不安には四逆散が第一選択ですが、ストレスが強い方には大柴胡湯がより適切です。イライラ・不安で喉の詰りがあるときには半夏厚朴湯がこの詰りを改善します。また、喉が詰まり空気の通りがよくないうえに、上腹部が張りガスが多い場合には茯苓飲合半夏厚朴湯を定期的に服用します。イライラ・不安が強くて動悸をきたす場合には、左右の胸腹部の境に抵抗感が触れる胸脇苦満を認めれば柴胡加竜骨牡蛎湯を、これがなければ桂枝加竜骨牡蛎湯を用います。また、そのうえに冷えが強いなら柴胡桂枝乾姜湯を使います。

・月経痛:芍薬甘草湯で痙攣痛をとり除きます。冷えが強いときには芍薬甘草附子湯が用いられます。鎮痛作用をもつ安中散との併用がより有用ですが、重症の時にはバファリンなどの鎮痛剤の併用(頓用)も必要です。

 

◎漢方薬の使い方

月経全周期でむくみが強い女性には当帰芍薬散、逆に乾燥肌になりやすい女性には身体を潤させる四物湯が基本です。

血流が低下した瘀血の体質を改善させる駆瘀血作用の基本薬は桂枝茯苓丸です。便秘が伴えば、下腹部の圧痛部位の違いから、主に左側なら桃核承気湯、右側なら大黄牡丹皮湯、両方なら通導散が良いでしょう。

月経周期を規則正しくさせる場合は、低温期には卵を育くみ子宮内膜を厚くさせ、月経調整作用の基本薬といわれる四物湯(滋潤の補血薬)を、高温期には浮腫(むくみ)を除き月経調整作用をもつ当帰芍薬散〔利尿(利水)の補血薬〕を、月経期には月経血の円滑な排出を促進させる桂枝茯苓丸(駆瘀血薬)を用います。排卵が目的の場合には、四物湯より温経湯を用います。

卵と子宮内膜の若返りが目的の場合には、月経全周期に冷えがあれば八味地黄丸、なければ六味丸を用います。

身体全体の冷えには五積散を、手足や下腹の冷えには当帰四逆加呉茱萸生姜湯を、月経不順とむくみには当帰芍薬散を、腰から下半身の冷えとむくみには苓姜朮甘湯を、寒くて元気がなく冷えあれば真武湯を用います。

子宮内膜が薄い(血虚)場合は四物湯が第一選択で、月経血量が多い場合は止血作用をもつ芎帰膠艾湯も考慮します。

着床率を上げる基本には、当帰芍薬散もしくは当帰建中湯に「当帰」+「川芎」と黄芩湯を加えます。

 

1か月分の料金の概算は、当帰芍薬散660円、当帰四逆加呉茱萸生姜湯660円、桂枝茯苓丸830円、八味地黄丸920円、温経湯1,590円、柴苓湯3,440円などです。

 

 

 津田沼IVFクリニックは、誠心堂薬局様https://www.seishin-do.co.jp/の強力なご協力とご指導をいただき、また正書より学びながら一人でも多くの方に妊娠という良い結果となるように努めています。