妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~

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妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 抜粋
000776926.pdf (mhlw.go.jp)

令和3年3月 厚生労働省

 

妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 ~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 厚生労働省 | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)

 

1.「妊産婦のための食生活指針」改定の趣旨

若年女性のやせは、早産や低出生体重などのリスクを高めることが報告されています。

若い女性は朝食の欠食割合が高いほか、エネルギー摂取量も少なく、低体重(やせ)の割合が高いという現状があります。

受胎前後に重要な葉酸の主な供給源である野菜の摂取量も、20歳代で最も少なく、野菜を1日に350g以上摂っている人の割合は20%を下回っています。

妊娠前から妊娠期におけるエネルギーおよび栄養素摂取量の不足が、胎児の発育に影響を与えることが危惧されます。

低出生体重児割合は9.5%であり、昭和631988)年から平成21990)年、平成262014)年から平成292017)年にかけて増加しています。

 

胎児期の発育が十分でなかった場合、成人後に肥満、循環器疾患、2型糖尿病などの生活 習慣病の発症リスクが高まる可能性があります。

胎児期の成育環境が神経学的な発達にも影響するという知見が広まり、児の将来の健康や特定の疾患のかかりやすさは胎児期や出生早期の環境が影響するという概念が注目されるようになりました。

人生の最初の1,000日(受胎から満2歳の誕生日まで)の適切な栄養が将来の健康維持に重要であるとされています。

 

 

.日本人妊産婦をめぐる現状と課題

(1)体格をめぐる現状と課題

 a) 女性の体格の現状と課題

15~39歳の女性の体格指数(Body Mass Index:BMI)の平均値は、昭和 481973)年以降、平成101998)年代初頭まで減少傾向を示しました(図1)。

同じ時期に、低体重(やせ)(BMI<18.5kg/m2)の者の割合は増加傾向を示し、昭和481973)年には2029歳で15.1%、3039歳で7.2%であったのが、平成292017)年にはそれぞれ21.7%、13.4%でした(図2)。

平成14年国民栄養調査(厚生労働省)の結果によると、「現在、体重を減らそうとしている」者の割合は2029歳で 54.4%、3039歳で52.5%と半数以上を占めていました。

 

日本が所属している西太平洋地域で18歳以上の女性の低体重(やせ)の者の割合は9.8%と27か国中5番目の高さでした(WHO 平成282016)年) 。

低体重(やせ)や体重減少による若年女性における健康障害の代表的なものに、排卵障害(月経不順) があります。排卵障害は不妊の原因となります。また、低体重(やせ)の女性ほど閉経年齢が低く、将来の骨粗鬆症のリスクが心配されます。

 

b)新生児の体格の現状と課題

人口動態統計調査(厚生労働省)によると、我が国で生まれる新生児の数は減少傾向にあり、昭和 261951)年には約 210 万人であったのが、令和3年(2021)年には約81万人となっています。

出生体重が2,500g未満の低出生体重児割合は、最も少なかった昭和 50 1975)年の5.1%から増加し、平成 162004)年以降は9.5%前後となっています(図3)。

平均出生体重は、昭和501975)年をピークに平成172005)年ごろまで減少傾向を示し、 以降はほぼ一定です(図4)。

 

(2)女性の食をめぐる現状と課題

 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、妊婦は妊娠中の母子の適切な栄養状態を維持し、正常な分娩をするため、妊娠前と比べて余分に摂取すべきと考えられるエネルギーおよび栄養素摂取量が、妊娠期別に付加量として設定されています。

授乳婦についても同様に付加量が示されています。

妊婦における「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の推奨量・目安量と現在の摂取量を比較すると、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、葉酸、ビタミンC、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜 鉛など多くの栄養素の摂取量が少ない状況にあります。

妊娠前からの適切な栄養摂取が望まれます。

「日本人の食事摂取基準(2015 年版)」の推定エネルギー必要量と平成29年国民・健康栄養調査(厚生労働省)に基づく摂取量を比較したところ、特に若年女性において、十分にエネルギー、栄養素を摂取できていない状況が明らかになっています。

エネルギー産生栄養素バランスについて、15歳から29歳までの女性では、脂質エネルギー比率が30%を超えており、「日本人の食事摂取基準(2015年版)」の目標量を上回っています(図5)。

主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度も、若年女性ほど少ないことが示されています (図6)。

妊娠を希望する女性は、胎児の神経管閉鎖障害発症リスク低減のために 十分な葉酸摂取(400μg/日)が必要となります。しかし、非妊娠時の30 歳未満の女性の葉酸摂取量は300μg/日にも達しておらず、葉酸の摂取源の一つである緑黄色野菜の摂取量も十分ではありません(図7)。

 

(3)女性の身体活動をめぐる現状と課題

平成29年国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、女性の歩数の平均値は1日あたり5,867歩であり、この10 年間でみると、大きな増減はみられませんでした。

目標値として、2064歳女性で8,500/日、65 歳以上女性で6,000/日が掲げられているものの、いずれの年代においても目標値に達していません(図8)。

平成28年国民健康・栄養調査(厚生労働省)によると、1回30分以上の運動を週2回以上、1年以上継続している人(運動習慣有の人)は、女性全体で27.4%であったも のの、20 歳代から30 歳代の女性では、10%を下回っていました(図9)。特に、若年女性は定期的な運動を実施できていない現状にあります。

妊娠前からの積極的な身体活動量の増加が望まれます。

 

(4)たばこや女性の飲酒をめぐる現状と課題

喫煙は、がんや脳卒中、2型糖尿病の発症リスクを高めるだけでなく、女性の生殖能力の低下や閉経後の骨密度低下等との関連があることも示唆されています。

平成29年国民健康・ 栄養調査(厚生労働省)の結果によると、喫煙している女性の割合は7.2%であり、年齢階級別にみると、3050歳代でその割合が高いことが示されています(図 10)。

妊娠中の喫煙率も減少傾向にありますが、0%には達していません(図11)。

受動喫煙により、小児の呼吸器疾患や中耳炎、乳幼児突然死症候群が引き起こ されることも指摘されており、育児中の保護者や周囲の人の禁煙も重要です。

加熱式たばこや電子たばこなどの新しいたばこ製品についてもニコチンの含有や発がん性物質の発生が報告されており、健康に悪影響を及ぼす可能性があります。

女性は飲酒によって、男性よりも早期に肝硬変やアルコール依存症になりやすいほか、乳癌など女性特有の疾患リスクが増大するなどのリスクがあります。

平成29年国民健康・ 栄養調査(厚生労働省)の結果によると、飲酒習慣のある女性の割合は8.3%であり、年齢階級別にみると、3050歳代でその割合が高いことが報告されています(図12)。

妊娠中の飲酒率は減少していますが、0%には達していません(図13)。

喫煙・飲酒ともに習慣化してから行動を変えることは難しいため、早目の対策が必要です。

 

(5)授乳をめぐる現状

授乳は、子どもに栄養素等を与えるとともに、親子の絆を深めるため、子どもの心身の健やかな成長や発達を促す上でとても重要です。

母乳には、乳児の代謝負担が少ない、感染症の発症や重症度の低下、産後の母体の回復の促進、母子関係の良好な形成などの利点があります。

平成27年乳幼児栄養調査(厚生労働省)の結果によると、授乳の方法は、10 年前に比べ、母乳栄養の割合が増加しています(図 1415)。混合栄養も含めると、母乳を与えている割合は、生後1か月で 96.5%、生後3か月で 89.8%と、多くの母親が母乳育児を行っていることが報告されています。

妊娠中の母乳育児に対する考えについては、「ぜひ母乳で育てたいと思った」が 43.0%、「母乳が出れば母乳で育てたいと思った」が 50.4%であり、 両者を合わせると9割以上の妊婦が母乳育児を希望していることが示され(図 16)、「ぜひ 母乳で育てたいと思った」または「母乳が出れば母乳で育てたいと思った」人の多くが実際に母乳育児を行っていました(表1)。

母子にとって母乳は基本であり、母乳で育てたいと思っている人が無理せず自然に母乳育児に取り組めるよう支援することは重要です。ただし、必要に応じて育児用ミルクを使 用させるなど、柔軟に対応し、母乳や育児用ミルクといった乳汁の種類にかかわらず、母親の選択を尊重し、心の状態等に十分に配慮した支援が必要です。

 

 

3.指針の構成と各項目の解説

(1)妊娠前からはじめる妊産婦の食生活指針の構成

    ~妊娠前から、健康なからだづくりを~

妊娠前から、バランスのよい食事をしっかりとりましょう

「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと

 不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと

「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に

乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に

妊娠中の体重増加は、お母さんと赤ちゃんにとって望ましい量に

母乳育児も、バランスのよい食生活のなかで

無理なくからだを動かしましょう

たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう

お母さんと赤ちゃんのからだと心のゆとりは、周囲のあたたかいサポートから

 

(2)指針の各項目について

妊娠前から、バランスのよい食事をしっかりとりましょう

1食分のバランスの良い食事の目安として、主食・主菜・副菜が揃っていることがあります。1日の食事のうち主食・主菜・副菜の揃ったものが2食以上の場合、それ未満と比べて、 栄養素摂取量が適正となることが報告されています。

1日に、何をどれだけ食べたら よいのかの目安が示された「食事バランスガイド」および「妊産婦のための食事バランスガイド」に沿った食事をすることで、主食・副菜・主菜、牛乳・乳製品、果物を適切に組み合 わせて摂取することができ、必要な栄養素をバランスよく摂ることができます(図 17)。

1日に2回以上主食・主菜・副菜の3つをそろえて食べることがほぼ毎日である女性の割合は、20 代で32.1%、30 代で47.4%であり、若い世代にバランスのとれた食事がとれていない状況がみられます(図18)。

妊娠前から栄養のバランスに配慮した食生活を意識し、実践することが望まれます。

 

「主食」を中心に、エネルギーをしっかりと

主食とは、ごはん、パン、麺など、炭水化物を多く含み、エネルギーのもととなる料理を言います。

妊婦の平均的なエネルギー摂取量は1,700kcal前後とされています。妊娠中には、 適切な栄養状態を維持して、正常な分娩をするために、妊娠前に比べて必要なエネルギー摂取量が増加します。妊娠前に比べて、妊娠初期(〜136日)は50kcal、妊娠中期(140日〜276日)は 250kcal、妊娠末期(280日〜)は450kcal余分にエネルギーを摂る必要があります。

授乳婦も妊娠前に比べて350kcal余分にエネルギーを摂る必要があります。

 しかし、十分にエネルギーを摂取できていない状況にあることが分かりました(図19)。

エネルギーをしっかりと摂取するためには、炭水化物を中心に食事を摂取することが必要ですが、炭水化物の主要な摂取源である穀類の摂取量は、20歳から49歳の女性において減少しています(図 20)。

 このため、妊娠前からの意識的な主食の摂取が望まれます。一度に十分な量の主食を摂取 することが難しかったり、3回の食事で十分に主食を摂取できなかったりする場合は、間食におにぎりを摂取するなど、主食からのエネルギーをしっかり摂取できるよう心がけましょう。

 

不足しがちなビタミン・ミネラルを、「副菜」でたっぷりと

妊娠中や授乳中の女性は、特に多くのビタミン・ミネラルについて、摂取量が十分ではないことが報告されています。

摂取量が不足しがちなビタミン・ミネラルとしては、葉酸と鉄が挙げられます。葉酸は、胎児の先天異常である神経管閉鎖障害の予防のため、妊娠前から充分に摂取していることが大切です。鉄は、酸素の運搬に必須のミネラルであり、妊娠期には胎児の成長やさい帯・胎盤中への鉄貯蔵、循環血液量の増加などに伴い、需要が増加するため、妊娠前よりさらに多くの鉄摂取が必要です。

野菜は、葉酸や鉄を含めたビタミン・ミネラルのよい供給源ですが、若年女性の野菜摂取量は、目標値である1日350gに達していません(図 21)。 妊娠前においても鉄の摂取量は推奨量に達していません(図 22)。鉄や葉酸を多く含む食品 を組み合わせて摂取に努める必要があります(表2、3)。

妊娠前から、野菜をたっぷり使った副菜でビタミン・ミネラルを摂る習慣を身につけることが大切です。

 

葉酸と神経管閉鎖障害発症の予防

神経管閉鎖障害とは、胎児の神経管ができる時(受胎後およそ28日)に上手くつながらない先天性異常で、無脳症・二分脊椎・髄膜瘤などがあります。多くの場合、妊娠を知るのは神経管ができる時期よりも遅いため、妊娠に気づく前から葉酸を十分に摂取していることが大切です。この時期に葉酸のサプリメントを摂取することにより、神経管閉鎖障害のリスクが低減することが明らかになっています。神経管閉鎖障害を予防するためには、通常の食事に加えて、サプリメントや食品中に強化される葉酸として 400μg/日摂取することが望まれます(表4)。

食事性葉酸の生体利用率は低いため、生体利用率の高いサプリメントの葉酸(狭義)として摂取するように推奨されています。

妊娠経験のない女性における神経管閉鎖障害予防のための葉酸摂取推奨の認知度は、1519 歳で22.3%、2024 歳で24.8%、2529 歳で32.0%、3034 歳で34.8%、3539 歳で35.8%であり、十分に広まっていない現状が報告されています。また、日本国内における神経管閉鎖障害の発症率は1万出生(死産を含む)当たり6件程度で推移しており、減少傾向は認められていません。 したがって、意識的に葉酸のサプリメントや強化された食品として摂取することが大切です。ただし、過剰摂取により、健康障害を引き起こす可能性がありますので、サプリメントや強化食品から3064歳は1,000μg/日、その他の年齢区分では900μg/日を超える葉酸を摂取すべきではありません。また、神経管閉鎖障害は葉酸不足だけが原因で起こる ものではありません。葉酸のサプリメントを摂取しただけで、必ず予防できるというわけではありません。さらに、サプリメントを摂取したからといって、野菜などの食事性葉酸を含む食品を摂取しなくてもよいということではありません。

 

「主菜」を組み合わせてたんぱく質を十分に

たんぱく質は、からだを構成するために必要不可欠な栄養素です。主菜は、魚や肉、卵、大豆製品などを使った、食事の中心となるおかずの料理で、たんぱく質や脂質を多く含みます。

魚介類や肉類由来のたんぱく質摂取量は、全体のたんぱく質摂取量のうち、それぞれ2割程度にあたります(図 23)。同様に、穀類由来のたんぱく質摂取量も全体の2割を占めるため、主菜だけでなく穀類もしっかり摂る必要があります。

さらに、主菜は、その主材料の種類によって含まれる栄養素が異なります。例えば、魚の中でも、特に青魚には、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれるほか、牛肉や豚肉などの畜肉には鉄が多く含まれています(表5)。また、大豆製品には、食物繊維も豊富に含まれています。

特定の食材に偏らず、多様な主菜を組み合わせて、たんぱく質を十分に摂取するよう心がけましょう。

 

【妊娠中に気をつけたい食品】

 レバーなどに多く含まれるビタミンAは、過剰摂取により先天奇形が増加することが報告されています。妊娠を計画する人や妊娠3か月以内の人は大量の摂取を避けましょう。

 大型の魚介類には水銀の量が比較的多いものも見受けられるため、おなかの赤ちゃんに影響を与える可能性が指摘されています。

 肉・魚のパテ、生ハム、スモークサーモンやナチュラルチーズなど加熱していない食品(食前に加熱しない調理済み食品を含む)は、リステリア菌という食中毒菌が増殖している可能性があり、妊娠中は感染しやすく、赤ちゃんに影響が出ることがあります。食品を十分に加熱する必要があります。

 

乳製品、緑黄色野菜、豆類、小魚などでカルシウムを十分に

妊娠中や出産後は、胎児のからだをつくったり、授乳したりすることにより、母体からカルシウムが失われます。妊娠・出産・育児に適したからだをつくるためには、妊娠前からの積極的なカルシウム摂取を心がけることが大切です。

 日本人女性のカルシウム摂取量は平均的に少なく、十分に摂取できていない状況が長年続いています(図 24)。特に、カルシウムのよい供給源となり(表6)、同時にたんぱく質やエネルギー補給にも役立つ乳製品の摂取量は、学校給食の無くなる15歳以降、急激に減ってしまいます。

乳製品のほか、緑黄色野菜、豆類、小魚などからもカルシウムを摂取することができますので(図 25)、カルシウムを多く含む食品を組み合わせ(表7)、カルシウムの摂取量を増やすよう努めることが大切です。

 

妊娠中の体重増加は、お母さんと赤ちゃんにとって望ましい量に

妊娠中の体重増加は正常な妊娠経過でみられる現象です。適正な妊娠中の体重増加は、お母さんと赤ちゃんの長期的な健康の維持・増進につながります。妊娠中の体重増加が不足すると、早産のリスクや赤ちゃんが在胎週数に対して小さく産まれるリスクが高まります。逆に、妊娠中の体重増加が過剰だと巨大児(出生体重が4,000gを超える場合)のリスクや赤ちゃんが在胎週数に対して大きく産まれるリスクが高まります。また、妊娠中の体重増加が胎児発育に与える影響は妊娠前の体格によって異なり、やせの場合に、より強いことがわかっています。早産や、赤ちゃんが在胎週数に対して小さく産まれることは乳児死亡の危険因子であるだけでなく、成人後の循環器疾患や糖尿病発症の危険因子であることが報告されています。また、巨大児や赤ちゃんが在胎週数に対して大きく産まれることも、成人後の肥満や糖尿病発症の危険因子です。

妊娠中の望ましい体重増加量は、お母さんの妊娠前の体格指数BMIによって異なると考えられます。BMIの値は妊娠前の体重(㎏)を身長(m)の2乗で割って計算します。表8は、日本産科婦人科学会が提示する妊娠中の体重増加指導の目安です。これは、おなかにいる赤ちゃんが一人の場合の数値で、医師が妊婦の妊娠中の体重増加の指導を行うときの目安となるものであり、妊娠中の体重増加量については個人差を考慮した指導が必要になります。おなかに赤ちゃんが二人以上いる場合(多胎)は、それぞれの体格区分の体重増加よりも多く増加することがみられます。妊娠前の体格がふつう体型に区分される方でも、BMI が低体重に近い場合は、体重増加指導の目安の上限値を参考にします。

 

母乳育児も、バランスのよい食生活のなかで

授乳中には、エネルギーおよびたんぱく質、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタ ミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビタミンC、鉄、亜鉛、銅、ヨウ素、セレン、モリブデンを妊娠前よりも多く 摂取することが推奨されています。付加量を十分に摂取できるように、バランスよく、しっかり食事をとることが大切です。また、十分な水分摂取も母乳分泌には大切です。

母乳栄養は子どもにとっても母体にとっても負担の少ない授乳方法です。母乳栄養で授乳することは、妊娠中に増加した母体の体重や蓄積した脂肪の減少にもつながります。そのため、WHOでは生後6か月までの完全母乳育児を推奨しています。ただし、様々な要因で母乳栄養の実施が困難な場合もありますので、状況に応じて柔軟に対応する必要があります。

授乳婦の栄養素等の平均摂取量は、エネルギーやたんぱく質をはじめ、多くのビタミンやミネラルでも少ない状況にあります(表 10)。子どものアレルギー疾患予防のために、母親の食事は特定の食品を極端に避けたり、過剰に摂取したりする必要はありません。バランスのよい食事が重要です。

 

【摂りすぎに注意したい栄養素】

 日本人は海藻を食べるため、他国の人々よりもたくさんのヨウ素を摂取しています。ヨウ素は母乳中に移行するため、授乳中はその分妊娠前よりも多くの ヨウ素摂取が必要になります。しかし、過剰に摂ると、母乳中のヨウ素濃度が極端に高くなり、乳児の甲状腺機能に影響を与える可能性がありますので、摂りすぎには注意することが大切です。一方で、海藻の摂取を意図的に避け続けると、ヨウ素不足につながります。からだによいからと言って特定の食品ばかりを食べ続けたり、逆に、からだに悪いからといって避け続けたりすると、必要な栄養素を適切に摂取することが難しくなります。多様な食品を組み合わせて、バランスよく食べることが大切です。

 

無理なくからだを動かしましょう

身体活動・運動が、多くの生活習慣病の予防・改善や健康の維持等に効果があることは、よく知られています。また、座り続けることで健康障害が引き起こされることも分かってきています。さらに、妊娠中の身体活動・運動については、早産および低出生体重児のリスク を増加させない可能性が明らかになってきました。

極端に運動不足であること、運動をやりすぎることは、妊娠や出産に悪影響を及ぼす可能性がありま す。妊娠中に運動を始める場合は、医師や医療機関に相談の上、自身の体調に合わせて、無理なく実践することが大切です。

現在、1日の歩数が5,000歩未満の日本人女性の割合は増加しており、特に20歳代から50歳代においてその傾向が顕著です(図26)。また、運動習慣者の割合は減少しています(図27)。

妊娠前の女性については、「健康づくりのための身体活動基準 2013」や「アクティブガイ ド―健康づくりのための身体活動指針―」に望ましい身体活動量が示されており、それら を参考にして、健康づくりの取り組みを行うことができます。

 

たばことお酒の害から赤ちゃんを守りましょう

喫煙や飲酒が胎児へ与える悪影響は大きいため、妊娠中は禁煙・禁酒が原則です。妊娠中の喫煙率や飲酒率は減少傾向にありますが、まだ0%には達していません(図28)。

妊娠中の喫煙は、早産や前期破水、絨毛膜羊膜炎、常位胎盤早期剝離、前置胎盤などの妊娠合併症や、子の口唇裂及び口蓋裂、先天性心疾患、腹壁破裂増加、低体重(図29)及び発育不全、死産及び流産、乳児死亡率などの増加との関連が報告されています。また、妊婦自身の能動的な喫煙だけでなく、妊婦や子の受動喫煙も、子の発育障害、出生時体重の低下及び乳幼児突然死症候群リスクの増加との関連が懸念されています(図30)。子どもと別の部屋での喫煙でも、子どもに受動喫煙の悪影響が出ますので(図31)、育児中も継続した禁煙が重要です。

妊娠中の飲酒は、早産や妊娠高血圧症候群、癒着胎盤などのリスク増加に加え、子の発育不全や特異顔貌、多動学習障害を含む胎児性アルコール・スペクトラム障害を引き起こす可能性があります。胎児性アルコール・スペクトラム障害には、飲酒量や飲酒時期、摂取する酒の種類による安全域はないと考えられています。また、アルコールは母乳にも移行し、乳児の発達に影響を与えます。

身近な人に喫煙や飲酒の習慣があると、妊婦や授乳婦自身の喫煙や飲酒行動も多くなります。妊婦・授乳婦だけでなく、その周囲の人も自覚を持って禁煙・禁酒に協力することが大切です。禁酒や禁煙がうまく行かないときは、専門の医療機関を受診してみましょう。

 

お母さんと赤ちゃんのからだと心のゆとりは、周囲のあたたかいサポートから

お母さんと赤ちゃんのからだと心のゆとりは、家族や地域の方など周囲の人の助けや支えから生まれます。周囲の人は、お母さんの不安をやわらげ、母子ともに健やかな生活を送ることができるよう、協力することが大切です。

妊娠期・授乳期は、妊娠・出産・育児の開始によって、からだが急激に変化することに加え、毎日の生活のリズム等も短期間で劇的に変化します。そのため、身体的にも精神的にも 不安定になりがちです。16の市において1,900人を対象とした3~4か月児健康診査でのアンケート調査結果でも、多くの人が不安や負担を感じていること、また、その内容は妊娠中から出産後までの各時期により大きく変化していることがわかります(図32)。周囲の人は、お母さんの気持ちをくみ取り、その時々に見合ったあたたかいサポートを心がける必要があります。また、妊産婦には、日々の食事の準備や授乳・育児に負担や不安を感じたら、 家族や周囲の人に頼ったり相談したりすることを勧めましょう。地域の母子センターやサークル、食事の準備に便利なミールキットや宅配サービスなどの活用も提案してみましょう。

妊産婦は、疑問や不安を解消するために、インターネットやSNSなどを利用して情報を 収集することが多いですが、中には不安を煽るだけのものや根拠のない偏った情報もたく さんあります。そのような情報に振り回されないように、公的機関から発信された情報や出典のしっかりした情報を収集することが大切です。

 

【出産や育児に不安や戸惑いを感じるときは、一人で悩まず、保健師や助産師などの専門職に相談してみましょう。】

 近年、少子化や時代的な家族関係の変化などにより、妊産婦にメンタルヘルスの問題が生じやすい環境が存在しています。多くの妊産婦が子どもを産み育てることに困難を感じており、妊娠中は約10%、産後は1015%にうつ病がみられます。医療機関と地方自治体の連携により、妊娠から産後まで切れ目のない支援の取り組みが開始されていますので、出産や育児に不安や負担を感じたときには、ひとりで悩まずに、保健師や助産師などの専門職に相談することが大切です。