2023/01/05
着床不全を繰り返した体外受精・顕微授精症例における、採卵時の子宮内顆粒球コロニー刺激因子とヒト絨毛性ゴナドトロピンの妊娠率への影響
13-1786-Effect.pdf
「反復着床不全に対するG-CSFとhCGの子宮内注入」 津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)
化学的妊娠率、臨床的妊娠率、着床率、流産率
G-GSF hCG 生理食塩水 p値
化学的妊娠率 58% 49% 27.1% 0.007
臨床的妊娠率 56% 46.9% 22.9% 0.003
着床率 35% 23.3% 13.6% <0.001
流産率 2% 2.04% 4.2% 0.755
着床不全を繰り返す女性において、採卵時にG-CSFまたはhCGを子宮内投与することにより、生理食塩水(プラセボ)と比較して臨床的妊娠率、化学的妊娠率、着床率が有意に高く、同じ結果に関して、G-CSF投与の方がhCGより優れており、流産率は3群間で有意差はありませんでした。
生理食塩水投与群で見られた着床率(13.9%)および妊娠率(化学的妊娠率27.1%、臨床的妊娠率22.9%)の低さは、体外受精・新鮮胚移植周期における子宮内生理食塩水の注入効果を子宮内膜損傷の一種として分析した試験で、着床不全を繰り返す患者における生理食塩水の悪影響で説明できると思われます。生理食塩水が着床不全を再発した女性の生殖転帰に負の効果(妊娠率および着床率の低下)をもたらすことを明らかにしました。
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)の子宮内注入
「子宮内膜菲薄」と「着床障害」への取り組み
子宮内膜菲薄症例や、原因不明着床障害症例に対して、G-CSFを胚移植前の子宮内に注入すると有効なことがあります。
G-CSFについて
顆粒膜細胞で産生
子宮内膜、卵管液・卵胞液中に存在
働き
卵胞発育
排卵
胚盤胞への発育
子宮内膜間質細胞の脱落膜化
栄養芽細胞の母体組織への浸潤
胎盤形成
その他
子宮内膜の菲薄化が原因不明の際には、G-CSFの作用が不十分ということも考えられます。
特に、年齢が上昇すると卵巣機能が低下し、エストロゲンの減少による子宮内膜の萎縮が生じます。エストロゲン減少期間が長期化した例では、G-CSFが有効なことがあります。
子宮内膜非薄に対するエストロゲン補充、低用量アスピリン、ビタミンE、L-アルギニン、シルデナフィルの経腟使用、遠赤外線温熱治療(サンビーマー)、漢方薬などを行っても、胚移植前の子宮内膜厚が7mm以上に改善しない患者さんにG-CSF療法を検討します。
G-CSFの使用時期と使用方法
使用時期(例)
新鮮胚移植では、hCG使用日、胚移植の1時間前、採卵中などが考えられます。しかし、G-CSFの使用時期による効果の差があるとはされていません。
新鮮胚移植や自然周期での凍結融解胚移植ではhCG使用日にG-CSFも使用し、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植では、胚移植決定日にG-CSFを使用するような方法もあります。
使用方法(例)
G-CSFの使用量:
フィルグラスチム 100~300μg
量の多寡による効果の差は認められていません。
G-CSFの使用方法:腟を通して、子宮内に注入します。
反復着床不全に対するG-CSF療法の有効性の一報告
Treatment with granulocyte colony-stimulating factor in patients with repetitive implantation failures and/or recurrent spontaneous abortions – ScienceDirect
着床失敗を繰り返す患者および自然流産を繰り返す患者に対するG-CSF療法
G-CSFが、卵子と精子の成熟、子宮内膜の受容性、着床、胚と胎児の発育における重要なプロセスを制御している、あるいは制御する役割を果たしていると考えられています。
胚移植前のヒト絨毛性ゴナドトロピン hCG の子宮内注入
胚移植前のhCGの子宮内注入は体外受精–胚移植の成績を改善できます
Intrauterine injection of human chorionic gonadotropin before embryo transfer can improve in vitro fertilization-embryo transfer outcomes: a meta-analysis of randomized controlled trials (fertstert.org)
実験群(胚移植前に子宮内hCG注入を行う)の不妊女性は、対照群(プラセボの子宮内注入または注入なし)に比べ、出生率(44.89% vs. 29.76%)、継続妊娠率(48.09% vs. 33.42%)、臨床妊娠率(47.80% vs. 32.78%)および着床率(31.64% vs. 22.52%)が著しく高いことが示されました。
流産率は実験群で対照群より有意に低値でした(12.45% vs. 18.56%)。
500単位のhCGを胚移植の15分以内に注入された不妊女性は、最適な体外受精–胚移植の結果を得ることができます。
胚移植前のhCGの子宮内注入は体外受精/顕微授精における着床率と妊娠率を有意に改善します
Intrauterine injection of human chorionic gonadotropin before embryo transfer significantly improves the implantation and pregnancy rates in in vitro fertilization/intracytoplasmic sperm injection: a prospective randomized study (fertstert.org)
着床率と臨床妊娠率は、対照群(それぞれ29.5%と60%)に比べ、500単位hCG群(それぞれ41.6%と75%)で統計的に有意に高値を示しました。
着床率と臨床妊娠率は、100単位hCG群で26.6%と54%、200単位hCG群で28.3%と57%、対照群で29.4%と60%であり、それぞれ統計的に有意な差はありませんでした。
胚移植前のhCG 500単位の子宮内注入は、体外受精/顕微授精における着床率および妊娠率を統計的に有意に改善しました。
体外受精の成績を向上させるための子宮内hCG注入の最適な時期の検討
Investigating the Optimal Time for Intrauterine Human Chorionic Gonadotropin Infusion in Order to Improve IVF Outcome: A Systematic Review and Meta-Analysis (iiarjournals.org)
体外受精、顕微授精周期でhCGを子宮内に注入すると、胚移植の5-12分前に注入した場合のみ成績が改善されます。
凍結胚移植周期における胚移植前の子宮内hCG注入が妊娠率に及ぼす影響
The effect of intrauterine hCG injection before embryo transfer on pregnancy rate in frozen embryo transfer cycles | Elsevier Enhanced Reader
胚移植前に500単位のhCGを注入することにより、妊娠率が改善されることがわかりました。
流産率を減少させるものではありません。
hCGの子宮内注入は凍結融解胚移植で着床不全を繰り返した患者の妊娠予後を改善します
[Intrauterine injection of human chorionic gonadotropin improves pregnancy outcome in patients with repeated implantation failure in frozen-thawed embryo transfer] – PubMed (nih.gov)
胚移植3分前のhCGの子宮内注入は、着床不全患者の凍結保存胚移植における着床率および妊娠率を改善することができます。
2回以上の着床失敗後の胚移植前のhCGの子宮内注入の効果
Effect of intrauterine perfusion of human chorionic gonadotropin before embryo transfer after two or more implantation failures: A systematic review and meta-analysis – European Journal of Obstetrics and Gynecology and Reproductive Biology (ejog.org)
hCGの子宮内注入は、2回以上の着床失敗を経験した女性の臨床妊娠率および生児数の改善に有効であり、着床失敗の再発に対する治療介入の可能性を提供する可能性があります。
子宮内膜症女性における凍結融解胚移植前のhCGの子宮内注入が妊娠予後に及ぼす影響
Effect of intrauterine injection of human chorionic gonadotropin before frozen–thawed embryo transfer on pregnancy outcomes in women with endometriosis (sagepub.com)
hCG子宮内注入群では、妊娠率および臨床妊娠率が対照群(それぞれ47.4%、39.3%)よりも有意に高値でした(それぞれ64.4%、57.8%)。
新生児出生時体重は、単胎、双胎ともにhCG群(それぞれ3486±458g、2710±437g)が対照群(それぞれ3195±401g、2419±370g)より有意に高値でした。
子宮内膜症女性において、凍結融解胚移植前にhCGを投与した群は、投与しなかった群に比べ、妊娠率、臨床妊娠率、出生時体重が改善されました。
着床不全を繰り返すIVF/ICSI症例における採卵日の子宮内hCG注入の妊娠率への影響
Effect_of_Intra_Uterine_Granulocyte_Colony_Stimula.pdf
500単位のhCGと、プラセボとして生理食塩水の子宮内注入をした群では、臨床的妊娠率、生化学的妊娠率、着床率はそれぞれ、46.9% 対 22.9%、49% 対 27.1%、23.3% 対 13.6% とhCG注入群で有意に高値でした。流産率は群間で有意差はありませんでした。
コメント
反復着床不全に対するG-CSFの子宮内注入は、子宮内膜を厚くし、臨床的妊娠率と着床率、出産率を改善します。
胚移植前のhCG500単位の子宮内注入は、体外受精/顕微授精における着床率および妊娠率を改善しました。
保険診療ではできませんが、女性の身体への負担はなく、良い方法と思います。