空胞症候群

空胞症候群

 

 

空胞って何?

・・・卵胞の中に卵子がないこと?・・・

 

1個の卵胞には1個の卵子が入っています。

空胞といっても、「卵胞内に卵子が存在しない」「カラ」ということではありません。

 

体外受精・顕微授精の採卵の際に、卵胞液を吸引しても、卵子が得られないことがあります。

 

卵胞は、発育が進むに従って卵丘細胞が膨らみ、卵子が顆粒膜細胞から外れやすくなります。このため、成熟した卵子であれば、卵胞液を吸引することで卵子は回収できると想定されますが、卵子が卵胞壁に卵丘細胞とともに付着したままの状態になると、卵子の回収ができません。これが「空胞」で、卵子が「無い」、「カラ」なのではなく、硬くて吸い出すことができなかったため、卵胞内に残っているのです。

 

 

空胞の原因ははっきりとわかっていませんが、例えば次のようなことが考えられます。

 

1.成熟卵胞が排卵するためには、黄体化ホルモン(LH)が必要ですが、この成熟卵胞のLHの感受性が不十分なとき。LHが十分に作用しなかったときは空胞になるのかも知れません。

2.超音波検査で成熟卵胞と診断したが、実はもともと成長しない卵胞や、嚢腫だった場合。

3.体外受精・顕微授精の、採卵2日前の夜には、hCGという、卵子を成熟させるための注射を行いますが、hCGの吸収障害などにより、十分に体内に入らなかったり、働かなかった場合。

 

 

空胞の原因がはっきりとわかっていませんので、対応も難しいのですが、次のようなことが考えられます。

 

 1.卵巣機能の良くない方に、空胞が見られる傾向にあります。このため、卵巣機能の改善、卵子の質の向上が大切になります。

 2.hCGの増量、より早い時間での使用により、hCGの効果が見られることがあります。

 3.hCGLHの併用。注射のhCGと、LHを惹起する点鼻薬の併用により、卵胞が成熟することがあります。

 4.採卵日を遅くすることにより、卵胞が成熟しやすくなることがあります。

 5.卵胞内フラッシングとは、卵胞液吸引後に、生埋食塩水などを卵胞内に注入し、それを吸引する方法です。現時点では、賛否両論がありますが、当クリニックでは行いません。

 

 

採卵直前に超音波検査で見えた卵胞数と、採卵後に実際に採れた卵子数がなるべく合致し、かつ、この卵子が成熟卵であることが理想です。

 

 

空胞症候群の新規原因としてZP2のヘテロ接合性変異体を同定
Identification of a heterozygous variant of ZP2 as a novel cause of empty follicle syndrome in humans and mice | Human Reproduction | Oxford Academic (oup.com)

 

空胞症候群を発症した血縁関係のない女性において、常染色体優性遺伝するZP2のヘテロ接合型変異を発見しました。

それは、空胞症候群に関連した女性不妊症を引き起こし、卵子の細胞質にZP2が蓄積される結果となりました。

 

 

空胞症候群と卵子変性症を特徴とする女性不妊症におけるZP遺伝子の重要な役割について
The critical role of ZP genes in female infertility characterized by empty follicle syndrome and oocyte degeneration (fertstert.org)

 

生殖を成功させるには、成熟した卵子と精子が融合することが必要です。

体外受精治療では、調節卵巣刺激後の卵胞液から、中心部の卵子とその周囲の卵丘細胞からなる卵丘細胞複合体を吸引します。

卵胞が正常に発育しているにもかかわらず、排卵誘発後に卵子が採取できない状態があり、この生殖障害を空胞症候群と定義しています。

この症候群は、体外受精を受けた患者の0.045%から3.5%に生じると推定されています。

 

空胞症候群は、採卵日のβhCGの値によって、偽性空胞症候群と真性空胞症候群に分類されます。

真性空胞症候群は採卵当日のβ-hCG値が至適であるにもかかわらず、卵子が完全に採れなかった場合であり、偽性空胞症候群はβ-hCGの投与や生体利用率に誤りがあり、β-hCG値が低くて卵子が採れなかった場合であると定義されます。

偽性空胞症候群患者はhCGの再投与または再吸引の後、妊娠に成功することができます。

偽性空胞症候群の発生率と比較すると、真性空胞症候群はかなり稀です。

現在までに、黄体形成ホルモン/絨毛性ゴナドトロピン受容体(LHCGR)、透明帯糖タンパク質 1ZP1)、透明帯糖タンパク質 3ZP3)という3つの遺伝子が真性空胞症候群の原因であると報告されています。

 

LHCGRまたはZP遺伝子の変異は、2つの異なる表現型を特徴とする真性空胞症候群を誘発することが明らかになっ ています。

LHCGRに変異がある場合、卵子も卵丘細胞複合体も採取できません。

ZP1またはZP3の変異例では、卵丘細胞複合体は少し取れますが、卵母細胞が変性しているか、完全に崩壊している特殊な真性空胞症候群でした。

真性空胞症候群の病因は謎に包まれており、遺伝子診断には大きな困難が伴います。

卵子退縮を主徴とする真性空胞症候群の女性の51.43%は、ZP遺伝子の変異が原因である可能性が示されました。

特に、ZP1遺伝子の変異は、ZP遺伝子変異を持つ女性のうち、72.22%を占めています。

ZP遺伝子は卵子変性を特徴とする真性空胞症候群の主要な原因遺伝子である可能性が推測されました。

 

 

ZP1突然変異は空卵胞症候群と関連しています:前胞状卵胞期までの卵胞には無傷の卵子と透明帯が存在することを示す証拠です。
ZP1 mutations are associated with empty follicle syndrome: evidence for the existence of an intact oocyte and a zona pellucida in follicles up to the early antral stage. A case report. | Human Reproduction | Oxford Academic (oup.com)

 

空卵胞症候群は、卵巣刺激後に卵子が完全に回収されない疾患です。

LHCGRとZP3が原因遺伝子として同定されましたが、これらの患者の卵子がどうなっているかはまだ不明であり、空胞症候群の病因は不明なままです。

ZP1の欠損は卵胞の変性や卵胞穿刺時の卵子の脆弱化を招き、最終的に空胞症候群を引き起こすのではないかと推測されました。

 

 

卵子異常症患者における新たな透明帯遺伝子変異の発見
Novel zona pellucida gene variants identified in patients with oocyte anomalies (fertstert.org)

 

卵子成熟停止を伴うグループでは、新規変異体は発見されませんでした。

卵子形態異常を伴うグループでは、ZP1遺伝子とZP2遺伝子に新規の変異体が検出されました。

ZP遺伝子の変異は、卵子の形態異常を持つ患者の原因であるが、卵子の成熟停止を持つ患者の原因ではないかもしれません。

 

 

まとめ

 

HCGの増量、早期投与、2回投与、Gn-Rhaとのダブルトリガー、採卵日を遅くするなどを検討します。

・採卵日にβ-HCGの測定し、真性か偽性を確認します。

・遺伝子変異を調べます。

空胞症候群には、偽性と真性があります。

真性空胞症候群は採卵当日のβ-hCG値が至適で卵子が完全に採れなかった場合で、偽性空胞症候群はβ-hCG値が低くて卵子が採れなかった場合です。

偽性空胞症候群では、hCGの再投与または再吸引の後、妊娠に成功することができます。

偽性空胞症候群の発生率と比較すると、真性空胞症候群はかなり稀です。

現在までに、4つの遺伝子変異が真性空胞症候群の原因であると報告されています。

 

 

 

「空胞症候群」  津田沼IVFクリニック | tsudanuma-ivf-clinicのブログ (ameblo.jp)