TH1/Th2とタクロリムス

産婦人科ゼミナール

研修(一般向け) 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)

 

 

公益社団法人日本産婦人科医会定款
22 (jaog.or.jp)

 

第3条 本会は、母子の生命健康を保護するとともに、女性の健康を保持・増進し、もって国民の保健の向上に寄与することを目的とする。

第5条 本会は、前条の目的を達成するため、次の事業を行う。・・・(5)産婦人科医師等の学術研修・・・

 

 

Th1/Th2の話
3.妊娠まで 卵胞発育、卵の成熟、排卵、受精、着床 日本産婦人科医 (jaog.or.jp)

 

ウイルス、寄生虫などの炎症に関与するTh1細胞(細胞性免疫)は、母体が胎児を認識し、免疫系を賦活させるが、それに対し、アレルギー、喘息などに関与するTh2細胞(液性免疫)は、胎児側が免疫からの攻撃に対応している。

正常な妊娠では、Th1は抑制的に働き胎児を受け入れている。

このためTh1/Th2のバランスの異常が、着床と児の成長に関与すると考えられています。

 

 

反復着床不全  Th1/Th2
16.反復着床不全 日本産婦人科医会 (jaog.or.jp)

 

受精卵に対する子宮の受容性は、T細胞を介した免疫応答が担っている。T細胞は産生するサイトカインにより、IL2IFN-γ、TNF-αなどを産生し細胞性免疫を誘導するTh1細胞と、IL4IL13などを産生して液性免疫を誘導するTh2細胞に分類され、これらを制御性T細胞が制御している。正常妊娠では胎児・胎盤を異物とみなし攻撃するTh1細胞が減少しTh2細胞が優位になり妊娠が維持される。体外受精後に得られた良好胚を子宮内に複数回移植しても妊娠しない反復着床不全の患者は、明確な治療法もなく、胚移植後の妊娠率は若年女性でも10%未満である。

半分が精子由来である受精卵を受け入れる女性の免疫寛容が、妊娠にとって重要である。実際に反復着床不全患者と妊孕能正常の女性のTh1Th2細胞比を比較すると反復着床不全患者が有意に高い。Th1Th2比が高い反復着床不全の患者に免疫抑制剤であるタクロリムス(プログラフ®︎)を併用し胚移植を施行した妊娠率が63.6%と非常に高い。タクロリムスはTh1細胞を優位に低下させTh1Th2バランスを制御し受精卵に対する拒絶反応を避けることで、着床に至ると予想される。

 

 

タクロリムスによる免疫抑制は、着床不全を繰り返し、末梢血のTh1/Th2細胞比が上昇した女性の生殖予後を改善した
Immunosuppression with Tacrolimus Improved Reproductive Outcome of Women with Repeated Implantation Failure and Elevated Peripheral Blood Th1/Th2 Cell Ratios – Nakagawa – 2015 – American Journal of Reproductive Immunology – Wiley Online Library

 

末梢血Th1/Th2細胞比が上昇した反復着床不全患者(n42)に対し、25名にタクロリムスを投与し(治療群)、17名に無投与とした(対照群)。治療群は、胚移植の2日前にタクロリムスを投与し、妊娠検査当日まで継続し、合計16日間投与した。タクロリムスの1日投与量(13mg)は、Th1/Th2細胞比の程度に応じて決定された。

治療群の臨床妊娠率は64.0%であり、対照群(0%)に比べて有意に高かった(P < 0.0001)。流産率は6.3%、生児率は60.0%であった(P < 0.0001)。治療群ではタクロリムスによる重大な副作用は認められなかった。また、妊娠中に産科的合併症を発症した者はいなかった。

Th1/Th2比が上昇した反復着床不全患者に対し、タクロリムスを用いた免疫抑制療法は妊娠予後を改善させた。

 

 

Th1/Th2

反復着床不全での測定

 

 

免疫反応

 

サイトカイン(生理活性蛋白質)には多くの種類があり、免疫細胞の活性化や機能の抑制という役割を担っています。

ウィルスなどが感染すると、炎症性サイトカインが免疫細胞を活性化して、感染した細胞を攻撃します。

ウィルスなどが弱まると、抗炎症性サイトカインが働き、感染症状は治まります。

サイトカインはこのように、免疫機構のバランスを制御して、身体をウィルスなどから守っています。

A:1型免疫反応(炎症性)

炎症性サイトカイン

  腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α, TNF-α)

  インターフェロン γ,(interferon-γ , IFN-γ)

  interleukin(IL)-2

  その他

B:2型免疫反応(抗炎症性)

抗炎症性サイトカイン

  IL-451013

  その他

 

 

ヘルパーT細胞

 

A:1型ヘルパーT細胞(Th1

炎症性サイトカイン

  腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α, TNF-α)

  インターフェロン γ,(interferon-γ , IFN-γ)

  interleukin(IL)-2

  その他

を分泌します。

B:2型ヘルパーT細胞(Th2

抗炎症性サイトカイン

  IL-451013

  その他   を分泌します。

妊娠時はTh1に比べて、Th2が優位になります。

 

 

妊娠中に Th1が高いと・・・

 

炎症性サイトカイン

  腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor-α, TNF-α)

  インターフェロン γ,(interferon-γ , IFN-γ)

  interleukin(IL)-2  その他

 これらの炎症性サイトカインは、栄養膜細胞の子宮内膜への浸潤を抑制したり、死を促進させたり、更には血栓形成などによって胎児の成長に悪影響を及ぼします。

 

抗炎症性サイトカイン

  IL-451013  その他

 これらの抗炎症性サイトカインは、栄養膜細胞からのヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の産生を刺激し、このhCGは黄体ホルモンの産生を刺激します。更にこの黄体ホルモンは、抗炎症性サイトカインの産生を増やし、炎症性サイトカインを減少させます。

 

 

反復着床不全例では・・・

 

末梢血のTh1/Th2が高値であることが多く報告されています。

子宮内膜でもTh2が減少することによりTh1/Th2が上昇していたという報告があります。

しかしながら、Thの状況は、子宮内と末梢血では異なるという報告もあります。

 

 

タクロリムス

反復着床不全での使用

 

 

茨城の土壌細菌から生まれた薬が、世界の人々の命を救う!

情報037:茨城の土壌細菌から生まれた薬が、世界の人々の命を救う!/茨城県 (pref.ibaraki.jp)

 

茨城県の筑波山で採取された土壌の中に棲む細菌から、世界中でたくさんの人たちの命を救う薬が誕生しました。

その薬は免疫抑制剤。臓器移植の際に免疫システムが引き起こす、拒絶反応を抑える効果を持つ薬です。

筑波山の土壌サンプルから、薬効成分であるタクロリムス生産菌が発見されたのです。

 

 

タクロリムス(FK506)も、筑波山の土壌に棲む放線菌の代謝物から創られました。

 

 

タクロリムスの 効能又は効果

 

  1. 下記の臓器移植における拒絶反応の抑制

  腎移植、肝移植、心移植、肺移植、膵移植、小腸移植

  1. 骨髄移植における拒絶反応及び移植片対宿主病の抑制
  2. 重症筋無力症
  3. 関節リウマチ(既存治療で効果不十分な場合に限る)
  4. ループス腎炎(ステロイド剤の投与が効果不十分、又は副作用により困難な場合)
  5. 難治性(ステロイド抵抗性、ステロイド依存性)の活動期潰瘍性大腸炎

  (中等症〜重症に限る)

 

不育症・着床障害はありません。

 

 

タクロリムスの 妊婦への使用

 

添付文書には、「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。」と記載されています。

愛知県薬剤師会発行の「妊娠・授乳と薬」対応基本手引きには、妊娠と授乳は「安全」とされていますが、これ以外にも、妊娠中の使用の安全を記載している報告は国内外に多く見られます。

 

 

妊娠と免疫

 

免疫細胞には多くの種類があり、いろいろな方法で微生物やウイルス、がん、異物などと戦って、身体を守っています。

 

細胞性免疫では、微生物やウイルス、がん、異物などを、免疫細胞が攻撃します。

その免疫細胞は、CD4ヘルパーT細胞やCD 8キラーT細胞などです。

 

CD4ヘルパーT細胞はいろいろな免疫細胞に、細菌やウィルス、がん細胞などに対する「攻撃命令」を出す「司令」の働きをします。

CD4ヘルパーT細胞には、CD8キラーT細胞やナチュラルキラー細胞、マクロファージなど、異常細胞を攻撃する細胞を活性化する細胞性免疫を命令する「1CD4ヘルパーT細胞」と、B細胞を刺激して抗体を産生させる液性免疫を命令する「2CD4ヘルパーT細胞」があります。

 

 

妊娠と免疫

 

異物を排除する免疫機構の存在により、男性由来成分を含む受精卵は拒絶されるはずですが、妊娠ではこの免疫機構が働かず、受精卵を子宮に受け入れます。

1型ヘルパーT細胞(Th1)と2型ヘルパーT細胞(Th2)の比で、Th1優位の場合は細胞性免疫が、Th2優位の場合は液性免疫が強く働いています。

妊娠により子宮内膜が変化して生じる脱落膜はTh2優位の免疫状態であり、Th1/Th2の低下、すなわち相対的な細胞性免疫の低下が妊娠維持のために重要と考えられています。

着床不全ではTh1が胚を攻撃します。不育症では妊娠後にTh2が低下し、相対的にTh1/Th2が上昇します。これらのTh1による受精卵への拒絶を抑制する必要があります。

タクロリムスの添付文書には、

「【薬効薬理】カルシニューリン/NF-AT系を抑制することによりT細胞の活性化を抑制する。これによりIL-2やインターフェロンなどのサイトカインの産生が抑制さ れ、細胞障害性T細胞の誘導も抑制されるので、免疫抑制効果が得られる。」と記載されています。

 

 

タクロリムスの使用方法例

非妊娠時のTh1/Th210.3以上を免疫学的拒絶と判断して使用します。

① 10.3 ≦ Th1/Th2 <13.0 ; タクロリムス 1mg

② 13.0 ≦ Th1/Th2 <15.8 ; タクロリムス 2mg

③ 15.8 ≦ Th1/Th2      ; タクロリムス 3mg

④ Th128.8では、それぞれ1mgを追加します。

使用開始時期

不育症;妊娠成立(妊娠判定陽性)してから使用します。

着床不全;胚移植当日、或いは2日前から使用します。

・使用期間;妊娠36週、或いは分娩直前まで使用します。

注意

タクロリムスの使用と感染症の増加とは関係がありません。

タクロリムス服用での妊婦健診や分娩は通常です。

前期破水や早産、帝王切開などの際には、服用中止となることがあります。

タクロリムスはヘルパーT細胞からのサイトカイン産生を阻害する作用のため、Th1Th2の値を減少させるものではありません。また、妊娠中のタクロリムスの血中濃度に変化はありません。このため、妊娠経過中のTh1/Th2の再評価や、タクロリムスの増量・減量は原則行いません。

タクロリムスを使用しても、流産となることがあります。その多くは染色体異常とされています。

 

 

 

 

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