Y染色体微小欠失検査 特にAZFa欠失について

Y染色体微小欠失検査 特にAZFa欠失について

無精子症因子(AZF)領域

 

 

染色体

 

染色体は1つの細胞に46本含まれ、母親から受け継いだものと、父親から受け継いだものがペアとなって23組になっています。

44本は常染色体、2本は性染色体XYで、女性はX染色体が2本、男性はX染色体とY染色体が1本ずつです。

女性の染色体を46XX、男性の染色体を46XYと記載します。

 

 

Y染色体AZF領域   無精子症因子(Azoospermia factorAZF

 

AZF領域には、精子形成に重要な役割をもつ遺伝子が複数存在します。

無精子症や高度乏精子症の原因として、AZF遺伝子の微小欠失が関わっています。

AZFはY染色体上にあり、ab、cに分かれています。

Y染色体微小欠失検査は、この領域の遺伝子欠失の有無を調べる検査です。

 

 

精巣内精子採取術施行前にY染色体微小欠失検査は推奨されるか?

日本生殖医学会 生殖医療ガイドライン

 

1.顕微鏡下精巣内精子採取術前にはY染色体微小欠失検査を行う。(A)

2.Y染色体微小欠失が認められた場合、患者が希望すれば遺伝カウンセリングを受けられる環境を整備する。(B)

推奨レベル(A);実施すること等が強く勧められる

B);実施すること等が勧められる

 

 

Y染色体微小欠失

 

男性不妊症の遺伝学的要因の一つで、 Y染色体長腕上のAZF領域の微小欠失です。AZFaAZFbAZFcAZFb+c欠失など様々な型があります。

無精子症の原因の1015%です(AZFa1%、AZFb1%、AZFc10%)。

Y染色体は1つのみですので、Y染色体微小欠失は男児へは必ず遺伝し、不妊症となることがあります。

 

精子採取予測

AZFa、AZFbまたはAZFb+c欠失の無精子症では精子回収の可能性がないので、精巣内精子採取術(TESE)の適応になりません。

AZFc欠失の無精子症または高度乏精子症では精子を回収できる可能性が高く(50%以上)、TESEの適応となります。顕微授精で子供ができる可能性があります。

TESEの前に精子採取可能性の有無が判明するため、非常に重要な検査です。

 

 

男性不妊の遺伝子スクリーニングはどこへ行くのか?
Where are we going with gene screening for male infertility? – Fertility and Sterility (fertstert.org)

 

AZFa領域には精子形成に必要な遺伝子が含まれており、そのうちUSP9YDBY2つは、欠損すると生殖細胞(セルトリ細胞のみ)が完全に失われます。

AZFb領域にはRBMY1PRYがあり、これらを欠失すると一次精子細胞期で減数分裂停止となります。

AZFc領域の欠失は、AZFa領域やAZFb領域の欠失に比べて著しく異質です。

領域のどの部分が欠損しているかによって失われる遺伝子は異なりますが、DAZが最も多く、次いでCDYTSPYです。

その結果、AZFcの孤立性部分欠失を持つ男性の中には、精巣に精子形成の病巣が残っている場合があります。

 

 

非閉塞性無精子症の管理
Management of nonobstructive azoospermia: a committee opinion – Fertility and Sterility (fertstert.org)

 

完全なAZFaまたはAZFb Y 染色体微小欠失を保有する男性には、精子同定がまれであることを考慮し、心理社会的カウンセリングと併せて、精子提供または養子縁組を検討するよう助言する必要があります。

 

 

Y染色体微小欠失の分子診断に関するEAA/EMQNベストプラクティスガイドライン:2013年版最新版
EAA/EMQN best practice guidelines for molecular diagnosis of Y‐chromosomal microdeletions: state‐of‐the‐art 2013 – Krausz – 2014 – Andrology – Wiley Online Library

 

AZFa領域全体の欠失は、必ずセルトリ細胞遺残症候群(SCOS)および無精子症をもたらします。

AZFa領域が完全に欠損していると診断された場合、卵細胞質内精子注入法(ICSI)に用いる精子を採取することは事実上不可能であることを示唆しています。

 

AZFa領域の完全な欠失の場合、TESEは推奨されないため、TESE/ICSIの候補となりうる無精子症の患者には、欠失のスクリーニングを行う必要があります。

P4パリンドロームの近位ブレークポイントを持つAZFbまたはAZFbc領域の欠失の無精子症キャリアにおける顕微鏡下TESEは、最終的に試みられるかもしれません。

しかし、精子を採取できる可能性が非常に低い、あるいは事実上ゼロであることを患者に十分説明する必要があります。

 

 

USP9Y完全欠失者の精子形成について
Spermatogenesis in a Man with Complete Deletion of USP9Y | NEJM

 

ヒトY染色体上の無精子症因子領域AZFa、特にユビキチン特異的ペプチダーゼ9Y結合遺伝子USP9Yを包含する領域の欠失は、乏精子症や無精子症に伴う不妊に関与していると考えられてきました。

我々は、正常精子症の男性、その兄弟、父親において、USP9Yを欠失させるAZFaの欠失を詳細に特徴付けました。

この大きな欠失と正常な生殖能力との関連は、これまで不妊症や無精子症の候補遺伝子と考えられてきたUSP9Yが、男性の生殖において重要な役割を担っていないことを示すものです。

これらの結果は、不妊症あるいは不妊症の男性のY染色体に微小欠失があるかどうかをスクリーニングする際に、USP9Yを考慮する必要がない可能性を示唆しています。

 

 

AZFa領域のsY84sY86を欠失した正常な生殖能力
Normal fertility with deletion of sY84 and sY86 in AZFa region – Tang – 2020 – Andrology – Wiley Online Library

 

我々はAZFaの領域に〜20kbの欠失を持つ男性2名が正常な生殖能力を示す家族を発見しました。

これまでAZFa完全欠失の患者において精子が確認できたという報告はありませんが、AZFa部分欠失の患者では表現型が正常でも軽度である症例がいくつか報告されています。

Krauszらは、USP9Y遺伝子に異なる欠失を有し、自然発症した2例を報告しています。

そして、Luddiらの研究では、正常な精子の男性にUSP9Y遺伝子の欠失が見つかりました。

我々の研究では、AZFaの部分欠失があるにもかかわらず、症例とその父親は共に正常な生殖能力を有していました。

このように、欠失が完全なものか部分的なものかを区別することは、不適切な患者へのカウンセリングを避けるために非常に重要です。

 

 

遺伝カウンセリングを受けましょう

 

AZFaAZFbまたはAZFb+c欠失の無精子症では精子回収の可能性がないので、精巣内精子採取術の適応になりません」

AZFa領域全体の欠失は、必ずセルトリ細胞遺残症候群および無精子症をもたらします」

AZFa領域が完全に欠損していると診断された場合、卵細胞質内精子注入法に用いる精子を採取することは事実上不可能であることを示唆しています」

左記のような文献や成書が非常に多く見られますが、一部には、可能性が0でない記載「精巣内精子採取術で精子が見つかる可能性は低い」等も見られます。

ご本人やご夫婦にとりまして、とても重要な件ですので、遺伝カウンセリングを受けてみましょう。カウンセラーによって意見が分かれると推測されますので、複数の医療機関を受診するのも良い方法かと思います。

 

 

 

 

https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12750948094.html