2022/06/27
早発卵巣不全 早発閉経
(primary ovarian insufficiency : POI premature ovarian failure:POF)
POIとは
40歳未満の女性
女性の1~2%に認めます。
閉経レベルまで卵巣内の残存卵胞が減少(1000個以下)、或いは消失するため、卵巣内に発育卵胞がなく、排卵障害や4カ月以上の無月経、不妊を呈します。
卵胞ホルモン低値(例えば、20pg/ml未満)、性腺刺激ホルモン高値(例えば、卵胞刺激ホルモン40mIU/mlより高値)のため、更年期症状を呈することがあります。
POIの原因
不明(特発性)がほとんどです。家族性発症を認めることがあります。
Turner症候群などのX染色体異常
遺伝子異常、遺伝子変異(卵胞刺激ホルモン受容体異常など)
自己免疫疾患(アジソン病、重症筋無力症、甲状腺機能異常、糖尿病、全身性エリテマトーデスなど);自己抗体が卵胞細胞を攻撃して変性させます。
ホルモン産生卵巣腫瘍
酵素欠損(軽症ガラクトース血症など)
感染
医原性(卵巣手術、抗癌剤、免疫抑制剤、放射線治療など)
POIの経過
卵胞発育が起こったり、卵巣機能が復活する場合があり(約20%)、自然妊娠、或いは生殖補助医療で妊娠することがあります(5~10%)。「間欠的卵巣機能回復」と呼ばれる卵巣機能の一時的な回復を捉えることが大切です。
しかし、自分の卵子で妊娠することは困難であるため、海外での提供卵子と夫の精子との生殖補助医療を行い、妊娠・出産する方もあります。
POIの治療(挙児希望のある場合)
①ホルモン療法
(1)卵胞ホルモン(エストロゲン)を補充すると、卵胞刺激ホルモン(FSH)値と黄体形成ホルモン(LH)値が低下しますが、この状態を2カ月程度継続してから卵巣刺激を行うと、卵胞発育が見られることがあります。
(2)GnRHアゴニストでFSH値とLH値を2カ月程度低下させてから卵巣刺激を行うと卵胞発育が見られることがあり、この後に生殖補助医療を行います。
②原始卵胞体外活性化法
IVA : in vitro activation
手術で卵巣(組織)を取り出し、卵子活性化剤添加で原始卵胞の成長を開始させた後に、生体内に戻して卵胞発育を期待します。
対象(妊娠希望がある方)
卵巣機能低下(早発卵巣不全、早発閉経:40歳未満で1年間の無月経、卵胞刺激ホルモン高値、卵胞ホルモン低値、胞状卵胞ほとんどなし等) ⇒卵胞が残っていれば、通常の排卵誘発が無効の場合でも、IVA後に卵胞発育がみられることがあります。
46歳未満で、体外受精等で妊娠成立しない方 ⇒より多く採卵でき、妊娠率の上昇が望めます。
対象外
卵胞が残っていない(IVAは卵子を作り出すことはできません)
妊娠の希望がない
(卵胞発育がある)
施設により、IVAの対象は異なります。
方法例(腹腔鏡手術)
手術中移植
1.卵巣皮質の一部を切除します。
2.切除した卵巣皮質を1mm角に細かく切断します。細かく切断することで、原始卵胞が活性化されます。
3.卵巣皮質と髄質の間、あるいは卵巣近くの腹膜を切開して卵管間膜に袋を作成します。
4.細かく切断した1mm角の卵巣組織多数を、(卵子活性化剤添加で原始卵胞の成長を開始させた後に)腹膜を切開した袋に注入します。
5.腹膜の袋を閉鎖して、そこに癒着防止フィルムを貼ります。
凍結・融解して、後日に移植
1.卵巣皮質の一部を切除し、急速凍結します。
2.凍結保存していた卵巣皮質を融解し、1mm角に細かく切断します。細かく切断することで、原始卵胞が活性化されます。
3.細かく切断した卵巣皮質を2日間培養します。培養液には、原始卵胞の発育を促す成分が入っています。
4.卵巣皮質と髄質の間、あるいは卵巣近くの腹膜を切開して卵管間膜に袋を作成します。
5.細かく切断した1mm角の卵巣組織多数を、(卵子活性化剤添加で原始卵胞の成長を開始させた後に)腹膜を切開した袋に注入します。
6.腹膜の袋を閉鎖して、そこに癒着防止フィルムを貼ります。
IVAは最近の治療のため、未知のことが多くあります。現時点での胞状卵胞数や採卵数の増加状況、妊娠・出産率などはIVA担当医にご確認ください。
IVAを実施しても、その後に卵子ができないことがあります。
実施施設が少なく、診察の順番待ちに多くの時間が必要のようです。
IVA適応条件は施設により異なります。診察により対象外とされることがあるかも知れません。担当医にご確認ください。
卵巣を細かく切断することで、原始卵胞が活性化されることについて ⇒ 不妊患者におけるHippoシグナル伝達破壊と卵胞活性化【JST・京大機械翻訳】 | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター
早発卵巣不全の不妊症治療は、少しでも早期に開始することで妊娠という結果につながり易くなります。様子を見ている数か月の内に、卵子を完全に失うことも多くあります。
無月経の期間が長い、月経不順が著しい、血液検査で卵胞刺激ホルモン(FSH)がとても高い、抗ミュラー管ホルモン(AMH)がとても低い等の場合は、速やかに受診され、体外受精など積極的な治療をご検討されることをお勧めします。
IVAは選択肢の一つでありますが、第一選択・必須ではありません。十分な治療をしても卵胞発育があまり見られない場合などでご提案します。
③卵子凍結、胚(受精卵)凍結、卵巣凍結
④甲状腺機能異常やホルモン産生卵巣腫瘍などが発見された場合は、その治療を先行します。
フィンランド女性集団における早発性卵巣機能不全の発生率と家族性危険度
Incidence and familial risk of premature ovarian insufficiency in the Finnish female population | Human Reproduction | Oxford Academic (oup.com)
発生率は35~39歳が最も高く、1993~1997年の73.8/10万女性年から2013~2017年の39.9/10万女性年まででした。
2007年以降、15~19歳の発生率は7.0から2015~2017年の10.0/10万女性年に上昇しました。
1988~2017年の40歳未満の女性のPOIの累積発生率は478/10万人でした。
POIのある女性の親族におけるPOIの相対リスクは、POIのない女性の親族と比較して4.6(95% CI 3.3~6.5)でした。
POI女性は対照群と比較して、社会経済的地位と教育水準がやや低い傾向がありました。
早発性卵巣機能不全(POI)は、40歳以前に卵巣機能が失われることと定義されています。
欧州生殖医学会(ESHRE)では、無月経が4ヶ月以上続き、4週間以上間隔をあけて2回以上の検体でFSHが閉経後高値(>25 U/l)を示す場合をPOIと定義しています。
卵巣機能の低下は、不妊症や更年期障害の原因となり、骨粗鬆症や心血管疾患など様々な疾患のリスクを高めるといわれています。
文献によると、POIは女性の約1%が罹患するとされています。
POIには、環境毒素、遺伝的および染色体異常、ならびに医原性および自己免疫的な原因など、様々な病因が関連しています。
遺伝的要因としては、ターナー症候群や脆弱性X前変異などのX染色体異常が最もよく知られているが、常染色体特異的な突然変異が報告されることも多くなってきています。
FSHR遺伝子の変異は、フィンランド人の集団で報告されており、創始者変異も含まれています。
多胎妊娠の子供であることは、一般集団と比較して、POIのリスクを有意に増加させます。
早期初潮(11歳以前)および未経産も危険因子として同定されています。
喫煙は、低BMIと同様、独立した危険因子です。
医原性POIの原因としては、手術、化学療法、放射線療法が挙げられます。
しかし、大半の症例は原因不明のままです。
社会経済的地位の低さは、自然閉経年齢の低さと関連しています。
約30年前、Cramerらは、早期閉経を経験した姉妹を持つ女性では早期閉経のリスクが9倍高く、早期閉経を経験した親族を複数持つ女性では12倍高いことを報告しました。
POIの家族歴がある女性も、早期閉経のリスクが6倍高値でした。
POIの早期発見
卵巣に残っている卵子数、卵巣予備能の指標となる抗ミュラー管ホルモン(AMH)という血液検査があります。「卵巣年齢」と呼ばれています。
卵巣機能低下の初発症状であることが多い月経不順やホットフラッシュがあったり、卵巣手術を受けたことのある方、30歳以上の女性は、検査を受けてみることをお勧めします。
https://ameblo.jp/tsudanuma-ivf-clinic/entry-12750422494.html